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雨が止んだ日◇02
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十時に駅で待ち合わせ。
帰りに涼太くんの家に寄るから、お泊まり用具は置いてきていいです。
昨晩そう連絡が届いたので、八時半に目覚ましをかけた。先に身支度を済ませて普段よりお洒落にして、余計にお金を財布に詰めてようやく朝食をとった。待ち合わせの駅に着いたのは、約束の二十三分前だった。
「また早すぎた」
辺りを見回しても人は疎らだった。通勤ラッシュは過ぎたけれど、店が開くまでは少し時間のある微妙な時間。
「……デート、なのかな、これって」
昨日の今日で素直に喜べない自分がいる。こんな大切な日なのに。
「はやいね、涼太くん」
「わぁっ!」
突然のことにだらしのない声が溢れた。桑原さんもくすくす笑っている。
「く、桑原さんもはやいですね」
「楽しみだったから」
さらりと言うところが格好いい。嬉し過ぎて顔がにやけないように、わざと口を尖らせた。
「行こうか。乗り継いで、一時間くらいかかってしまうから」
「結構長いんですね」
「仕方ないよ。ここら辺は美術館もないから」
電車に乗ってすぐの座席に二人で並んで腰掛けた。窓から伝わる暖かい日差しに夏を感じる。気持ちがいい。
この車両にはスーツ姿の男性が一人と、夫婦と思われる老人が二組しかいなかった。
「桑原さん、いつもと違うファッションなんですね」
「仕事以外で出かけることをずいぶんとしていなかったから、お洒落かどうかは分からないけどね」
苦い笑みを浮かべる彼に、素直に「かっこいいですよ」と告げる。
ふと気付く。昨日、宮崎さんが俺に言った「かっこいい」と、きっと俺は同じ意味合いで使っている。
「本当かい?よかった」
照れ臭そうに首筋を掻いて今一度彼は正面を向き直した。
カーキ色のシャツに渋い緑色のカーディガンを紳士に来こなした姿は、きっと誰でも見惚れてしまう。
高い背、長い手、ゴツゴツした指、綺麗な鎖骨。同じ男なのにこんなにも違う。
……本当に、苦しいくらい、格好いい。
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