アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
雨が止んだ日◇03
-
くだらない話を繰り返して、十一時七分に目的地へと辿り着いた。人が多く行き来する、出入り口がたくさんある大きな駅だ。
「お腹は空いてる?」
「え?」
「お昼時になると混むから、ふらふらして良いところを探そう」
「美術館は……」
「六時までやっているし、そんな長くいても飽きちゃうでしょう」
飽きちゃう。なんだかチクリとして、飽きることなんてないですよ、と反論してやりたかった。でもきっとどれだけ価値のある絵を観ても、素人の俺は凄いしか出てこないのだろう。
大通りを歩いていると看板がいくつか見えた。中華、パスタ、寿司、インドカレー。
「何が食べたい?」
「俺、あんまり好き嫌いないからどこでも。桑原さんは?」
「うーん……パスタにしよう。ミートスパゲティが食べたい」
意外な言葉に驚きつつも、頷いてお店へ向かって歩いた。看板は二階を示していて、細い階段を登るとお店が見えた。場所はいまいちだけど可愛らしい店内。桑原さんの言ったとおりまだ客数は少なく、窓側の景色が見れる席をとることができた。
ミートスパゲティと、俺はカルボナーラを頼んで向かい合って食べた。
場所は違えど、また二人での、いただきます。
「涼太くんは美術館は初めてかい」
「学校行事で、中学生のときと高校一年生のときの二回、行ったことがあります」
「そうか。それくらいしか行く機会もないよね。普段は何をして遊んでいるの」
「カラオケとか。あとはたまにダーツやボーリングです」
「ダーツなんてやるの?すごいね」
でも俺、ヘタクソなんですよ。と笑うと、彼も一緒に笑ってくれた。
「桑原さんはインドア派なんですか?それとも仕事が忙しいとか」
桑原さんがスプーンとフォークを使って上品にパスタを一口食べた。俺も真似してスプーンを使うけど、全然上手くいかない。
「仕事は水曜日が定休日。日曜日は交代して出るんだよ。普段の平日も、代わり番こで一日だけ休みが貰えたり貰えなかったり」
「今日は……」
「一緒に働いている人の代わりに、私が平日に入ったんだ。そしたら今日、休みをくれた」
土曜日は混むのにね、と桑原さんが続ける。
「仕事柄インドアなのかもしれない。でもどこかへ行くのは好きだよ」
桑原さんはそっと俺の手元に手を伸ばすと、不恰好に握られたスプーンを取り上げた。
「高級レストランなわけじゃないんだ。涼太くんの好きなように食べなさい」
「……はい」
ああ、恥ずかしい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
23 / 54