アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
雨が止んだ日◇07
-
「ああ、もう出たの」
「はい。先に湯船借りちゃって、すみません」
「いいんだよ、気にしないで」
「はい……」
沈黙が苦しい。逃げ場なんてないから仕方なく居間で流れてくるテレビに目をやった。最近注目を集めている芸人が出てくるクイズ番組。ゲラゲラと下品に笑うその声が、耳に伝わってはそのまま過ぎて行く。
「……なんだか、余所余所しいね」
「え」
左隣に座った桑原さんが、あの日と同じように俺の髪に触れる。
「やっぱり、話さない方がよかったかい。……気にしちゃうよね」
「そんなっ!話してくれたのは凄く嬉しいです。知らないままでいるのは、何だか嫌だから……」
「じゃあどうして」
「どうして、って……」
何か思っていることがあるんでしょう?そう言って見つめてくる桑原さんの瞳は強すぎて、上手く合わせられない。
そんな真っ直ぐとした目で、見つめないで。
「か、悲しくて、苦しくて……俺、どうしたらいいのか……」
小首を傾げる彼に、俺は恐る恐る唇を動かす。小刻みに震えるのは唇だけじゃなく、左の指先も微かに震えた。
「……桑原さんには、奥さんを一生忘れないであげて欲しい。桑原さんが忘れちゃったら、本当に奥さんはひとりになっちゃうから……でも俺、桑原さんが好きだからっ……俺のこと、見て欲しい……ごめんなさい、めちゃくちゃ矛盾してますね」
恥ずかしい。情けない。こんな自分が悔しくて俯くと、頭上で桑原さんの笑い声が聞こえた。
「ふふっ。涼太くんは本当に、不器用だけど真っ直ぐだね。そういうところ、好きだな」
えっ、という驚きの声が溢れる前に、彼は続けて言う。
「忘れないって言ったでしょう。妻のことは忘れない」
「はい……だから俺、変で……本当、おかしくて……」
奥さんのことを忘れないであげて欲しい。でも俺のことも見て欲しい。
本当は良い子でいたいだけなのかもしれない。同情しているだけなのかもしれない。けれどそれも全て、この男が好きだから。
「好きなんです……桑原さんが、好き、なんです……っ」
身体中の体温がぼうっと熱く燃え上がるようだった。恥ずかしくて恥ずかしくて、両手で顔を覆って隠しても、耳まで真っ赤なのが自分でも分かる。
「涼太くん」
呼ばれたと同時にあの大きな手が俺の腕を退け、唇が奪われる。一瞬何が起こっているのか分からなかった。気づいたときには彼の舌が侵入し、口の中を探られる。
「くわは、ら、さ……っ」
呼吸を整えつつ彼の名を呼ぶと、しまった、という顔をして見つめられた。
「……ごめん、涼太くん」
「なんで、こんな、」
「好きだよ。俺も君が好きだ」
「お、れっ……?」
初めて聞いた、そんな言葉を使う彼を。
「ああ、ごめん。……もう本当、余裕ない」
力強く抱き締められた腕が痛い。手のひらにじんわりと汗が滲む。心臓の音が煩い。頭がついていかない。
「君のくれた好きは、私と同じで合っているのかな」
辛うじて首だけを縦に振った。
心臓が、壊れそう。
「ーー君を、涼太くんを抱きたい。布団も先に敷いてしまった。……いい?」
ずるい。
彼は、ずるい。
「……は、い」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 54