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十歳◇01
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ーー夜、夢を見た。
俺と木下がはじめて会話をしたあの頃の、幼い記憶。
ただ純粋に誰かを好きだと感じた、大切で、でも同じくらい醜い感情。
「あ、おはよう日比谷」
眠気眼で起き上がった拍子に、懐かしい声が聞こえた。
「うっ、おっ……おはよう……」
「う?ふふっ、変なの」
可笑しそうに笑う木下の体には昨晩のエプロンが付けられていて、菜箸を持ったままフライパンと睨み合っている。
一瞬、夢との区別ができなかった。
なぜこの男が目の前にいるのだろうと思ってすぐ、ああそうか、俺は昨日、ゲイバーでこの男と再会したのかと気付く。
なんという不運か幸福か。
「……起きるの早いんだな」
「朝食を作っちゃおうと思って。でもやっぱり、朝起きて冷蔵庫がいっぱいになるわけじゃないからなあ」
俺が頭を掻きながら「悪かったな」とふてくされると、また小さく笑った。
よかった、笑えてる。
「朝はおにぎり。ふりかけで大きいのを三つ作ったから、全部食べてね」
「朝からそんな入らない……」
「日比谷は朝食さえ摂らなさそうだもんな。でも俺がいる以上、食べさせるから」
「俺がいる以上ってお前、」
いつまで居る気だ。そう聞こうとして、やめた。
「なに?」
「……俺、朝はパン派だから」
「分かったよ、次からはパンにしてあげる」
この生活がいつまで続くのか全く想像がつかなかった。
昨日までは、いや、木下が風呂からあがるまでは、てっきり一日限りの夢だと思っていたから。
けれどあの痣を見てしまった以上、何も言わずに帰すわけにはいかない。
木下が家を出てきた理由も、恐らくそこにあるから。
「なに怖い顔してんだよ」
「えっ」
「ほら早く食べて!会社遅刻するぞ」
「あ、ああ」
いっそこのままで良いとさえ思ってしまう。
それは俺のエゴだろうか。
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