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十歳◇02
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木下に見送られ新婚のような感覚を味わってすぐ、車の通りが多い十字路に出て現実に引き戻される。
バタバタと足早に走り去る社会人と、他人の迷惑も考えずに横へ並ぶ学生たち。
俺もその中の一人なんだと思いたくなくて、イヤフォンを耳に当ててなるべくゆっくりと進んだ。
iPodから流れるバンドの曲は、少しだけ雑音を消した。
会社に着いても、いつもと変わらない日々だ、と憂鬱になりながら午前中は終わった。
三十分間、けれど実質十五分程度の昼食をやっととろうと立ち上がると、後輩の男が声をかけて来た。
「あれぇ、日比谷先輩、今日は弁当っすかぁ」
何のことだと小首を傾げると、鞄の中に手を突っ込んで布包みを取り出された。
「えっ」
「いつも買い弁なのに珍しいっすね。彼女さんっすかぁ?羨ましい」
ヘラヘラと笑いながら、俺の許可もなしに包みを開けられる。
こんなの知らない。彼女にだってここ二週間ほど会っていないし、木下だって何も言っていなかった。いやでも、木下くらいしか……。
「ちょっ、勝手に、」
「うわっ!ラブラブじゃないっすかぁ!」
「っ、」
蓋を開けて驚いた。
ソーセージと玉子焼きと金平牛蒡と、おかずはシンプルなものの白飯の上に海苔で文字が入っている。
“LOVE”
「なんすか、なんすか。昨日はお楽しみだったんですか?」
ニシシ、と下品に笑う男が素手でソーセージを掴んで口に入れる。
「あっ、おい!」
「んまいっすよ、先輩!羨ましいなぁ」
「勝手に食べるなよ……」
深くため息をついて頭を抱える。
この後輩は相変わらず常識がない。近頃の若者は普通なのだろうか。
初恋の相手の、少しばかりは気になる相手の手料理を、手作り弁当を、感情もなしに食べられてしまうなんて。
「そんな怒らないでくださいよぉ、手料理なんていつでも食べれるじゃないっすかぁ」
謝る気のない男は、またヘラヘラと笑いながら出て行った。
「……」
木下裕也。
彼は一体何を考えているのだろう。夜の誘いに愛情こもった手作り弁当。
「ラブ……らぶ……。好き」
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