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手紙◇03
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はやく出て行けと促されて、いつもより五分はやい電車に飛び乗った。
木下がアルバイトをしているコンビニがある駅とは、反対側の路線。
大きな駅へと続くこの路線は、人の流れが集中する。嫌そうな表情を浮かべた乗車客に押し潰されながら、二十分ほど電車に揺られて再び乗り換えた。
また、何でもない一日が始まる。
「あっれ、先輩なにため息なんかついてんすかぁ」
出た、と一瞬顔を顰めてしまったのを申し訳なく思いつつ、男の方へ体を向ける。
「ため息なんかついてたか」
「ついてましたよ〜。もう、今日は待ちに待った木曜日!飲みに行く日じゃないっすかぁ」
「お前が楽しみなのは、どうせ飲みに行くことじゃなくて新しい出会いだろう」
「当たり前じゃないっすかぁ!あわよくばお持ち帰りを狙うしかないっすよ〜」
「お持ち帰りって……」
そんな言葉を久しぶりに聞いた。若かりし頃は夜明けまで飲みあさり、“イイコ”がいれば自宅にでもホテルにでも連れて行っていたのに。
今の彼女と出会い仕事も遊びも楽しみを失い、暇があればゲイバーに通っていた頃に木下裕也に再開した。
俺は何がしたいのだろう。
誰に恋をし、誰を愛したいのだろう。
「日比谷先輩、今日は彼女に外泊許可とったんすかぁ?」
「は?なんで外泊許可?」
「いやぁ、だってたまにはいいじゃないっすか。先輩だって、浮気したい日もあるでしょう?」
「っ……」
浮気、という言葉に反応してしまった。
『浮気、バレちゃうよ』
彼はあの日にそう言った。
『浮気はしてない。飲みに来てるだけだから』
『誘われたら?日比谷って背も高いし顔も悪くないしーー仕事帰りなの?スーツっていいね』
今の彼女が好きじゃないのかと聞かれたら、正直黙ってしまうだろう。
アイツはまだまだ幼い心を持っていて、危なっかしいところがあるから、俺が面倒を見てやらなくてはならない。どちらかというと、恋慕よりは母性に似た何か。
『俺に誘われても?』
あの日、何も返すことができなかったのはーー。
「外泊許可も何も、最近はずっと会っていない」
「え〜?そうなんすか。つまんないなぁ」
「……もうとっくに、浮気してんのかもな」
「え?なんすか?」
「何でもない。ほら、そろそろ仕事に戻れ。残業は手伝ってやらないぞ」
「はぁい」
だらしがない後輩の返事と同時に、俺はパソコンを開いて再び作業を進めた。
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