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手紙◇04
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同じように居酒屋と言われる場所でも、落ちこぼれが集まって慰め合っている場は苦手だった。
俺には、使い古されたロボットのような中年男性が、訳もない自信に満ち溢れて夢を語る馬鹿げた場所の方が、居心地が良かった。
「せんぱぁい、ぜんっぜん飲んでないじゃないですか?!」
座敷の真向かいに座るうるさい後輩は、顔全体をリンゴのように赤らめてだらしなくジョッキを揺らしている。
「お前は飲み過ぎだ。女はいいのかよ、女は」
「だって、狙ってた子は彼氏いるっぽいんですよねぇ……。ねぇ先輩、あの人って彼氏だと思いますか??」
指差された方へ顔を向けると、確かに通路を塞ぐ男女が唇を重ねている。
「ああ、確かに付き合ってるのかもしれないな」
目を細めて男女の顔を確認すると、ハッとなった。
見慣れた女の表情はいつになく無邪気で、酷く露出した足元には高い赤のヒール。居酒屋には到底似合わない。
なんで、なんでこんなところにいるんだよ。
「美由」
冷たく発したその呼び声が、予想以上に荒くなったのを自分でも感じていた。
女は俺の姿を確認すると、男の腕に絡めていた自分の腕を離す。
若干表情が歪んだが、暫くして邪魔者を見つけたかのような嫌な顔になる。
「良一……」
二人のやりとりを見た後輩が、現状を読めずにあたふたとする。俺の顔、女の顔、そしてまた俺の顔を見て唇を動かす。
「先輩……もしかして、彼女さんっすか?」
珍しく申し訳なさそうな彼が、苦い笑みを浮かべて居心地悪そうに視線を泳がす。
何だか不思議な光景を見たせいか、或いは馬鹿げたスキャンダルを目の当たりにしたせいか。可笑しな気持ちになって、嘲笑いに似たため息が溢れた。
「美由、また遊んでるのか。今度は誰だよ」
「嫌な言い方。トモダチよ、トモダチ。ちょっと仕事の関係で知り合って」
再び回された彼女の腕は、するりと隣の男に巻き付いていく。
「彼、良い人なのよ。よく遊んでくれてね、退屈しないの。彼といるといつも新鮮な気分になるの」
あなたは詰まらない人ね、と、言われているような気がした。
俺の金で買った洋服で、俺の知らない男と遊ぶ。
馬鹿げている。もう何度目だろう。
会いたいな、と、ふと木下の表情が脳裏に浮かんだ。
三日後の日曜日、どこに行こうかとはしゃぐ、木下の笑顔が浮かぶ。
「ーー美由、もう無理だよ」
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