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手紙◇05
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美由と出会ったのは大学生のときだった。いつも中心にいる彼女は、当初から遊びが過ぎていたが、明るく誰とでも仲良くなれる魅力的な女性だった。
東京に出てきたばかりの俺にはその輝かしさは羨ましく、恋というよりは憧れに近かった。
友人として彼女と親しくなり、より身近に感じるようになった頃、彼女の幼さにも気が付いた。
いつも周りをまとめていた彼女は、意外と繊細で危なっかしいんだ。それが恋をするきっかけとなった、はじめの印象だった。
恋人と呼ばれる関係になったのはごくごく普通なもので、また反面色気のない汚らしい卑怯な運だった。
遊び疲れた彼女が泣きじゃくり、誰かの愛を求めていたとき、都合良く現れたのが俺だ。
そう。所詮はタイミングが良かっただけなんだ。
「酷いもんよね、文句ばっかり。それでぶっ倒れちゃうんだもの」
遠くで声が聞こえる。朧な瞼を薄っすら開けて、眩しい光にまた目を閉じた。
「でも、日比谷にも理由があったと思います。訳もなく、酷いこと言う奴じゃないんで」
「き……のし、た……?」
声を頼りに顔を向けると、眉を下げた木下が覗き込む。ここは自宅マンションだったのか。
「日比谷、平気?今、水を持ってくるよ」
「ああ。ありがとう」と重い頭を抱えると、頭上で小さく笑う声が響く。
「嫌になっちゃう。彼女がわざわざ送ってあげたっていうのに、同居人の彼が良いわけ?」
「っ……!」
驚いて上体を起き上がらせると、腕組みをした仁王立の美由が俺を見下す。
「わ、悪い。……あいつは?」
「もう帰ったわよ、良一が居酒屋で潰れちゃったから。あの後輩くんに頼まれちゃって……断るに断れないでしょう、一応彼女なんだから」
一応、と唇の裏で繰り返してみる。
「美由、もうそういう……浮気とか、やめてくれないか」
眉間に皺を寄せた彼女が口を尖らせる。
「浮気じゃないわよ。あの人とはヤっていないもの。少し遊びに付き合ってもらっていただけよ」
唇を重ねていてよく言えたものだ。
今時の恋愛事情はその程度なのだろうか?分からない。
しかし何も言い返せない自分が、一番腹立たしくて仕方ない。
「日比谷、水」
キッチンで大人しく水汲みをしていた木下が、俯いていた俺に差し出す。
仕切りも何もない狭いこの部屋では、当たり前のように今までの会話は聞こえていたのだろう。
慰めるべきか素知らぬ顔をするべきか、悩んだ末に生まれたであろう不器用な笑顔が、何だか無性に可愛く思えた。
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