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愛した人◇01
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「これって……」
丁寧に封を開けた木下が、歪な幼い文字を眺めて呟く。幾度も書き直してクシャクシャになった紙が、年月を知らせるように黄色く変色していた。
伝えたい想いはたくさんあるのに、上手く言葉にできなくて、結局短い一文を書き綴ったこの手紙。
「ひ、びや……これ……」
「もう分かるだろ。……バーで会ったときに、全然そんなふうに見えなかったってお前は言ったけど、俺はもうずっと前からーー」
声に出すのが恐ろしくて、喉まで出かけた言葉が宙を舞う。ずっと前から、ずっと前から、と心の中で繰り返す。
「……好きだったの、俺のこと」
彼はどんな気持ちで言っているのだろう。
どんな表情をしているのだろう。
「ごめん」
俺の口から短く出た言葉は虚しくて、何で俺は謝っているのだろうとぼんやりと考えた。謝らなくてはならないような恋を、していただろうか。謝らなくてはならないような恋を、してしまっているのだろうか。
謝らなくてはならない恋って、なんなんだ。
人を好きになっただけなのに、何でこんなにも罪悪感でいっぱいなんだ。
「好きになって、ごめん」
沈黙の中で、時計の針だけが妙に大きく響いた。カチ、カチと一定のリズムを刻んで、心を落ち着かせる。
「……知らなかった、全然。気づかなかった」
情けなく笑う木下が、俺の言葉を繰り返すようにごめんと呟く。
「気付いてやれなくて、ごめんね」
どういう意味だろうと、働かない頭で考えた。酒の飲み過ぎか現実逃避か分からない頭痛はひどくなる一方だった。
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