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愛した人◇02
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「今の彼女は知ってるの?日比谷が、男の人が好きだって」
「知らない。というか、俺も分からない。……俺が男で好きになったのは、木下だけだったから」
再び訪れた長い沈黙が意味するものを、俺はまだ知らない。泣きたそうに笑う木下の表情も、ごめんと謝るその口も。
「……気持ち悪いよな。男から、同性からこんな……」
触れていた自分の髪を力強く掴んだグシャッという音と同時に、彼が思い切り頭を上げたのに気が付いた。でも見れない。その顔が、恐ろしくて見る勇気がない。
「気持ち悪いと思いながら、日比谷は俺を好きだったの」
彼の声が震えている気がした。
「そうじゃない!俺はただ純粋に、お前が好きでっ」
「気持ち悪いって今言っただろ!」
「っ……」
木下の手のひらに包まれたままの幼い手紙が、不恰好に小さくなっていく。皺まみれのラブレターは、まるで今の俺たちの状況そのものだ。
「日比谷はあのゲイバーで会ったときも、俺や周りの人を気持ち悪い奴だって思ってたのかよ」
「違うっ……別に偏見なんてないし、周りの人をどうこう思ってるわけじゃない!」
「それもただの偽善者なんじゃないの。……ゲイとか、そういう素振りも見せなかった日比谷があの場所にいて、何だか自分のやってることが少しでも肯定された気でいたのに」
「馬鹿みたいだ」そう呟いた彼が、微かに笑って手紙を離す。
「……怒ってるの」
「怒ってない」
「でも、」
「うるさい!!興味本位で男を好きになるくらいなら今すぐやめろ!そういうのが、同性愛者に失礼だって分からないのかよっ」
言葉が出なかった。
興味本位なんかじゃない。確かにあの時、あの場所で、俺は真剣にこの男に恋をした。でも木下が言い放った「失礼だ」という言葉が、どうしてか被害者ではなく、加害者の目線から受け止めてしまう自分がいる。
俺は、同性愛者に失礼なことをしてしまっているんだ。
「……木下は、なんであの日、ゲイバーにいたんだよ……」
彼の冷たい視線が俺に向かう。まだ酔いの醒めない頭で、その冷たい目の奥をぼんやりと眺めていた。
「俺はまだ、中学生のときのお前で止まってる。女の先輩と付き合ってた木下が、なんでゲイバーにいたのか……ずっと、不思議だったんだ」
「え」
一瞬瞳を大きく広げた彼が、呆れたように、でも困ったように眉を下げて小さく笑う。
「……日比谷こそ、何も知らないで何で俺なんかを好きになったのか、不思議で仕方ないよ」
「俺はただっ」
「てっきり、俺がゲイだから好きになったのかと思ってた」
「え?」
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