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愛した人◇05
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甲高い着信音で目が覚めた。
どうやら随分と前から鳴っていたであろうコールは、夢の中で遠く聴こえてから認識をして初めて煩く感じる。
「ん……」
右手で音のする方に手を伸ばすと、ひどく身体の節々が痛んだ。一瞬引きつった表情をした後、目を細めて画面を睨む。
「……かい、しゃ……」
画面に浮かぶ文字を小さく読み上げる。
頭の中で「あれ?」と疑問に感じてから、みるみるうちに冷や汗が溢れてきた。
「会社?!」
条件反射で通話ボタンに触れてから、言い訳もまともに考えないまま返事をしていた。
「はい、日比谷です!すみませんでした!」
「お前、いま何時だと思ってるんだ!社会人にもなって寝坊だなんて……いい加減にしろ!」
「はい……はい、本当にすみません。今すぐ支度して行きます」
頭をカチ割られるような上司の怒鳴り声を大人しく聞きながら、はい、すみません、とだけ答えていた気がする。
そもそも遅刻も寝坊も何年ぶりだろうか。木下が家に来てから比較的規則正しい生活を送っていたと思う。何で仕事の日に限って、しかも金曜日に限って、木下は起こしてくれなかったのだろう。
歳のせいか疲れのせいか、じわじわと痛む身体をマッサージしつつ脳裏で文句を垂れた。
「ン……日比谷、起きたの?」
「あ、木下!何で今日は起こしてくれなかったんだよ」
「悪い……でも俺も、ちょっと起きれる状況になくて。日比谷があんなに何度もするから、身体がすごい痛いんだよ」
「はぁ?何言って、」
振り返り彼に目をやると、あれだけ痣を気にして露出を控えていた木下が服を着ていない。
いつも寝るときに着ている部屋着を脱ぎ捨てて早くスーツに着替えようと首元に手を伸ばしても、スカッと空回りをした。
「まさか日比谷、覚えてないの?タチ悪すぎるよ」
「っ……!」
覚えていない?覚えていないわけがない。
俺が初めて書いたラブレターを木下に見られ、なぜか木下に下半身を触られ、理性が飛んだ俺がリビングで木下をひたすら犯した。酔ってなかなか満足のいかなかった俺に最後まで付き合わせ、終わりかと思いきや木下が何度も出した精液を見てまた興奮し、次はベッドでもう何も出ないと泣く木下を犯した。ーー挙句、寝落ち。
「き、のしたっ……俺っ、」
「ふふ、その顔は思い出したみたいだね。よかった。日比谷の初、男との体験を忘れられて、また同じことされちゃったら身体が持たないよ」
「木下ごめん!……本当に、すまなかった。申し訳ない。俺があんな……あん、な、」
昨夜を思い出してまた下半身が疼いた。これはもう重症だ。
「もういいよ。誘ったのは俺だしさ」
「でもっ、」
木下は泣いていた。あのとき確かに、もう嫌だと泣いていた。
俺は最低だ。初恋の相手を泣かせて嫌がらせてまで、得たかった快楽なのだろうか。本当に最低で情けない。
「ほら、早く支度しないと怒られるよ。ただでさえ遅刻してるんだから」
「あ、ああ。そうだった……悪い、じゃあもうすぐ行くから」
「うん、俺はもうひと寝入りするね」
「分かった。……木下、本当にごめん」
飛び出すようにマンションを後にして職場に着くと、上司の二度目のお怒りと、うるさい部下の茶化しに合った。
その後の仕事が、あの男のことばかりを考えてしまい手に付かなかったのは、言うまでもない。
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