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つまらないはなし◇02
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木下がいない部屋というのは、ずいぶんと久方ぶりだった。自分の家なのにおかしなことを言っている。
あの男が家に来て、朝仕事に行くときも疲れて帰るときも彼は俺の近くにいた。
お笑い番組を見て声を出して笑う姿も、前日の夜から捨てるゴミを用意している物音も、風呂から上がった彼が隣に来たときに感じる微かな熱気と同じシャンプーの香りも、いつどこにいても人の温かさを感じる。
自分ひとりだとなぜか、自分が透明人間か幽霊になったんじゃないかというくらい静かだった。テレビを付けてみても雑音のようで居心地が悪い。
「……木下が来る前って、どういう生活してたっけ」
疲れ切って死んだように眠っていたのかもしれない。溜まった洗濯物をまとめて干していたのかもしれない。
せっかくの休日なのに、木下がおかえりと迎えてくれる平日の方が心が癒されていた。
彼は昼の十二時から夕方の五時までのシフトで、だいたい平日は毎日入っている。それはどうやらこの家に来る前から変わらず、同居していた恋人とやらの予定に合わせて頼んだらしい。
しかし今日は珍しく、夜のアルバイトが風邪で休みのため、急遽休日にも関わらず五時から十時まで入ることになったのだ。
木下がいない、木下の気配だけが微かに残った、ひとりきりの夜を迎える。
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