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つまらないはなし◇04
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駅と平行にある大通りは夜の十時を回っても、車や人の通りが盛んだった。競争するように道を挟んで向かい合うコンビニエンスストアが眩しくて、逃げるように細道に進むと一変、あたりは闇に包まれる。街灯もまるでない、誰かも知らない人の家から漏れる灯りを頼りに進む。
「まさか来てくれるとは思わなかったよ」
隣に並ぶ木下が、緩やかな坂を俯きながら歩いて言う。
「……暇、だったから」
素直に寂しくなったと言えなかった。
しかし木下には何か察するものがあったのか、小さくふっと笑われた。
「いつもは昼の時間帯しかバイトしてなかったけど、夜もいいものだね。夜のバイトの男の子、近くの高校に通ってるんだって。仲良くなっちゃった」
「木下はすぐに誰とでも仲良くなれるな」
そう言ってみたけれど、彼の交友関係なんて知らないに等しかった。
「その子、年上の恋人ができたんだって。……俺と同じだなぁ」
それはミサキさん?と聞こうとして、止めた。聞いてはいけないことだった。
木下は帰りたいのだろうか。叶うのならばそのミサキという人がいる家に、帰りたいのだろうか。寂しいのだろうか。
「……木下、」
キスがしたい。そう言ったら、どうなるのだろう。
性欲を満たすセックスも、互いを慰める自傷行為もいらない。ただ唇を重ねるだけの、キスがしたい。したい。そう思ってする、キスがしたい。
「やっぱり俺は、夕食時にいてくれた方が助かる」
下に広がる灰色のコンクリートが、どこまでも続いているようだった。
微かに笑った木下が、「あたりまえじゃん」と了解に似た返事をした。
この薄暗い道を真っ直ぐ進むとマンションに着く。俺が大学に入ったときから住み慣れた、けれどもう彼との思い出に溢れた、あのマンションに着く。
明日は何時に起きたらいいだろう。ずいぶんと使っていない母から貰った黒い目覚まし時計をかけてみよう。そう考えながら、隣にいる木下の歩調に合わせて帰った。
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