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つまらないはなし◇05
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ジリリリッと金属の部品が擦れ合う音が部屋中に響く。携帯端末でアラームをセットするとき、慣れてしまったアラーム音を変更するように、珍しいその音は俺の目を素早く覚めさせた。
隣で寝る木下を起こしてしまわないようにアラームをオフにして、一度大きな背伸びをしてから彼の様子を伺った。彼はまだ夢の中だ。
昨晩、木下と約束をした時間の二時間とちょっと前。我ながらはやく起きすぎたかもしれないと感じるが、シャワーも浴びたかったので丁度いい。
着替えを持って脱衣所に行こうとした矢先、背後で物音が聞こえた。
「木下、起こしたか。悪い」
彼は大きなあくびをしたのち、右目を擦りながら「ううん」と呟いた。
「ううん。やりたいことがあったから、早起きするつもりだったんだ」
やりたいことって何だろう。気になりはしたけれど、今日行く場所を聞いても答えてくれない彼だ。きっと何をするのか聞いても、いつものおどけた様子で秘密と言うのだろう。
「日比谷、今日、楽しみにしてるから」
まだ重たそうなまぶたが、色っぽく思えて見惚れた。小さな口元から見える歯が愛おしくて、抱き締めてしまいたい衝動をやっと殺して、呟くだけの返事をした。
「俺も、楽しみにしてる」
いつもより少しだけ長いシャワーを終わらせ、脱衣所を出ると食欲をそそる匂いがした。木下が朝食でも作っているのだろうか。
「お待たせ」
「あ、おかえり。日比谷は先に朝ごはん食べててくれる」
言われてテーブルの上を見ると、既にたまごとハムのサンドイッチ、そしてコーヒーが並べられていた。
「ちなみにそのサンドイッチ、お昼と同じメニューだから。許してね」
にしし、と笑う彼の隣に並んで、木下が持つフライパンの中身を覗く。タコの形をしたウインナーが良い具合に色を付けていた。
「弁当?」
「そう。しかも今日は、ちょっと豪華にしてみた」
あらかじめスーパーかどこかで買ってきていたであろう透明の容器に、色とりどりの具材が並べられている。もうひとつの容器には木下が言っていた通り、たまごとハムももちろん入った様々な種類のサンドイッチ。その横にはおにぎりが四つ、銀紙に包まれて用意されている。
「ははっ、ずいぶんと多いんだな」
「残ったら夕食にも回せるし、足りないよりかはいいと思って」
「ああ。美味しそう」
俺の言葉に、少し照れた様子の木下が「よかった」と笑う。
弁当を持って向かう場所とは果たしてどこだろう。遊園地、動物園、水族館。頭の中で木下と二人きり、笑い合う姿をイメージして口元が緩んだ。
楽しみだ。木下が俺のために作ってくれた弁当を持って、俺と二人で日曜日を過ごす。すごくすごく、楽しみだ。
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