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となりどうし◇01
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木下がこのマンションを出て行って、不思議と涙は溢れなかった。
いつもと変わらず朝食を済ませて仕事に行く。
違和感を感じたことと言えば、昼休みに無意識のうちに鞄に手を突っ込んで弁当を探していたことと、帰宅して扉を開けて「ただいま」を言っても、返事がなかったことくらいだろうか。
染み付いてしまった習慣は悲しさや虚しさよりも、自分に対する怒りさえ覚える。俺は何をしているのだ、と。
何をするわけでもなく、スーツのまま座り込んでかれこれ三十分は経ったと思う。
腹も減らないしシャワーを浴びる気にもならない。テレビをつけることさえ面倒くさく感じてしまって、ただ妙に眩しい照明だけが俺を照らし続けていた。
そんなとき、ピコンと音を立てて携帯端末が連絡の知らせをした。
『今日、仕事終わりに来なさい。もう仕事終わってるでしょう?』
恵太さんからだった。珍しく命令口調のその言葉は、俺を導くように強くやさしい。
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