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勝利のゆくえ
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「オレだよ!オレ!」
「オレオレ詐欺なら間に合ってますが!?」
「違う!オレだよ!楸!楸 綾人!!」
「あ、綾人さんっ!?」
ボクは目を丸くする。
よく見たら竹刀までしっかり装備していた。
攻撃力と引き換えに、暑そう重そうぶっ倒れそう。
「そんな暑苦しいの着込んで走ってたんですか」
「これでグラウンド5周だからな・・・そっちからは中 全然見えないからあれだけど蒸し風呂みたいになってっから。地獄だから」
綾人さんが肩で息をしているのに気づく。
さすがに『底無しの体力』の持ち主でも
炎天下の中は堪えるらしい。
問題の半分ぐらい間違えたしな。
という恐ろしい呟きは聞こえなかったことにしよう。
「ちなみにあそこのふらふら歩いてんの、椎名な」
「え、椎名!?」
指さした方向を見るとふらふらと歩いている剣道着姿(パート2)の人が遠くに見えた。
・・・あれ、大丈夫かな。
今にも地面に吸い込まれそうになってるけど。
でも良かったな。
お前の憧れの存在とお揃いで。
彼にとってのきっとそれが唯一の幸運だろう。
「ユキちゃんは・・・あとグラウンド何周?」
「1周ですけど、何ですか?その謎の間。」
「いやー、眼福だなって」
「シャラーーーーップ!!!」
ボクの仮装については触れないで頂きたい。
「で、走るのもう無理だろ」
「いやっ、そんな事は・・・」
「今だってオレに体重預けてるのに、よく言うよ。
それに脚も痙攣してるっぽいし。
・・・十分頑張ったよ、ユキちゃんは。だからもう・・・」
「ダメなんです!勝たないと、いけないんです!」
ボクは綾人さんの手を離し、
痛む脚を引きずってゴールへ向かう。
「絶対、勝たないと・・・!」
ボクに害が100%来ないなら、
もうゴールしてもいいよね?って
とっくの昔にリタイアしてるけど。
生き地獄。
今味わうか?(物理)
後味わうか?(精神)
って状況下にいるので、ボクとしては時が経てば自動的に治る物理の方がいくらかマシだと思う。
両方嫌だけどな!!
綾人さんは意地を張るボクにやれやれと溜息を吐く。
そしてボクの膝の裏と背中に腕を回して軽々と抱き上げる。
「うわっ!?ちょっと!?」
ボクは思わず肩をガシッと掴む。
「どーしても勝ちたいみたいだから、仕方ないから助けてやる」
「何言ってるんですか?ボクなんか見捨ててさっさと行けばいいのに。それに自分で勝たないと・・・」
綾人さんは無視して小走りでゴールに向かい始める。
「ひえっ、ちょっと!?」
「そんなに勝ちたいなら利用できるものは利用しろ。
最低限のルールを守ってどんな手を使っても勝て。
・・・だいたいそんな産まれたての小鹿みたいなピクピクしてる脚じゃまともに走れねぇだろ?」
「綾人さん・・・」
スポーツマンが『利用しろ』とか『どんな手も使え』なんて言ってもいいんだろうか。
攻めの姿勢が強過ぎてこっちが引いてしまう。
(この姿勢だからこそ強さとか勝利に繋がるのか?)
「ちなみに、ユキちゃんの景品は何なんだ?」
そこまで頑張るってことはよっぽど手に入らないか、自分では実現出来そうに無い事なんだろ?
と綾人さんは不思議そうに尋ねる。
「それは・・・」
ボクは思わず口ごもる。
「『新しい携帯』って書きました」
なんて答えてみろ。半殺しにされるのがオチだろ。
「・・・それが地の文だったらバレなかったのにな」
「え゛っ!?嘘っ!?声に出てた!?」
「がっつり出てたけど!?ユキちゃん、大丈夫か!?」
ボクは、しまったっ・・・と顔をしかめる。
まさか口に出てしまっていたとは。
痛恨のミスだ。
というか『地の文』なんてメタ発言しないで欲しい。
今更だけど。
「そうか・・・家計、厳しいのか」
「いや、普通だと思います」
従兄弟が大手有名企業の社長だからといって
ボクにまでその恩恵が回ってくるわけじゃないから
今も変わらずウチは一般家庭だ。
よく勘違いされるけど。
「・・・でもその方が都合いいかもしれねぇな」
「え?」
何の?と聞こうとした瞬間、ピピッ!と腕時計が鳴った。
ディスプレイには【GOAL!!お疲れ様です!】と表示されていた。
辺りを見るといつの間にかゴール地点についていた。
(・・・すごい。
この人 重装備で人運びながらゴールしたのか。)
ボクは色々驚きつつ、綾人さんに降ろしてもらう。
脚は相変わらず痛いままだ。
情けないけどすぐに歩けそうにない。
「優樹!大丈夫か!?」
鷹雅兄さんが慌ててこちらに駆け寄る。
「うわっ、鼻血垂れ流しながら来ないでくれる!?」
「だって、まさか本当にそれを着てくれるとは・・・夢みたいだ・・・!」
鷹雅兄さんはボクの手を掴み うっとりとする。
冗談だと分かっていても寒気がする。
「楸君。『俺の優樹』をありがとうね。」
綾人さんは面を取って、汗だくながらも爽やかな笑顔を浮かべる。
「いえいえ。『オレの大切なユキちゃん』が困ってたら助けるのは当然じゃないですか」
・・・何 2人とも勝手に火花を散らしてんの。
「そんなことより、もっと大切な事があるだろ!」
遅れて梓先生がこっちへ向かってきた。
「三城君!・・・であってるよな?」
「アズ先生何言ってるんですか?
どっからどう見てもユキちゃんじゃないですか?」
「ごめん。どう見ても可愛い花嫁姿の女性にしか見えなくて動揺した」
ボクは居た堪れなくなり、顔を手で覆う。
梓先生の言う通り、ボクは今 純白のウェディングドレス(走る事を考慮されてかミニ丈の)を着ている。
ちなみにウィッグ付き。
傍から見たらガチ女装。
「三城君、違和感ないね・・・」
「優樹、似合ってるよ」
「やめろ、嬉しくない」
ボクはグッ!と親指を立てて笑顔を向ける鷹雅兄さんの親指を掴む。
こんな感じで騒いでいると続々と他の人達もゴールしてきた。
「三城君、結果発表までまだ時間あるから 手当てしようか。楸君は水分補給しっかりしてね。鷹雅は席に戻れ」
「いや、俺も行くよ。少しぐらい席外しても問題ないだろうし」
「・・・はぁ、分かった。お前にはどうせ何言っても無駄だしな。じゃあ、三城君を保健室まで運んでくれ。今の格好の三城君にむやみやたらに触ったらセクハラで訴えられそうだしな」
「先生・・・」
「ごめん、最近 厳しい世の中でね・・・行こっか」
「「・・・・・・・・・」」
なんか闇を感じたんだけど!?
梓先生はそう言うとボク達は保健室に行き素早く手当てをしてくれ、閉会式に出た。
【それでは閉会式と最終メイン競技 校内外マラソンの結果発表を行います。結果はOBの三城 鷹雅さんから発表して頂きます!】
鷹雅兄さんは壇に上がると笑顔で演説を始めた。
【本日は皆さんの頑張る姿を間近で見ることが出来て、こちらもパワーをもらうことが出来ました。
有意義な時間をありがとうございます。
・・・それでは話はこれぐらいにして、結果発表に入ります。フルマラソンの優勝者は・・・
3年1組の楸 綾人さんです。
優勝 おめでとう!】
「まあ、そうだよなー」
「あの楸先輩だもんなー」
と皆 納得の表情で拍手や祝福の言葉を送る。
綾人さんは少しハニカミながら鷹雅兄さんの前に行く。
・・・ちなみにボクは【判定不可】。
つまり【リタイア】【不参加】と同じ扱いにされていた。
(まあ、最後 走らなかったし。
どうせ自分で走ったとしても優勝は無理だったし。
しょうがないよな。)
でも頑張ったからということで、特別に審査員賞をもらえるらしい。
・・・審査員賞で優勝者の無茶振り免除出来ないかな。
せめて綾人さんがまともなお願いを・・・!
ん?でも 進路について書いたって言ってたよな?
あれ?これ、いけるんじゃね?
「優樹、残念だったな」
「お疲れ様、椎名」
隣で椎名はいい顔を浮かべていた。
あれだけの距離を走りきったら達成感とか、
成長とか色々感じるよね。
「椎名、かなり早かったよね?何位?」
「お前のが早かっただろ。茶道部なのに。何なんだよあの脚力」
「ボク、中学は陸上部だったから」
「もしかして長距離?」
「うん、長距離」
「プロじゃん!もう、お前!マラソンのプロじゃんか!」
「とは言っても半年以上前の話だけどね」
ボク達は正面を見つめながら、会話をする。
椎名が横で『勿体無い』『続ければいいのに』と呟く。
【楸さんには優勝賞品として、出来る限りの希望を聞いてあげたいんだけど。何がいい?】
鷹雅兄さんは1位へと表彰状とメダルを渡す。
受け取りながら綾人さんは大声で言った。
「進路確定をお願いしますっ!!!」
【ごめん、それはちょっと厳しい。】
どっとグラウンドが笑いに包まれる。
んー・・・と綾人さんは少し考える。
「それじゃあ・・・」
「本当にあれでよかったんですか?」
翌日、僕は物置として使われていた部屋に積まれた段ボールを綾人さんと片付ける。
「なんで?」
「だって、せっかくの優勝賞品を譲っちゃうだなんて」
綾人さんは、いいんだよ、と笑顔を見せる。
あの後『じゃあオレ 特に欲しいのないから。2位の奴にあげます』と綾人さんは前代未聞な発言をして、優勝賞品を譲ってしまった。
「オレのクラスが施設のジム使い放題の券 ゲットしてたから2番目に欲しいのは手に入れてたし。
さすがに部屋でまで筋トレはしたくないから改造とかは考えてないし。」
「そうですね、部屋では大人しくしていて欲しいのでその方が有難いです」
ジャージ姿の夏目さんは段ボールをスタスタと持ってくる。
「それに、2位が誰か知っていたのでしょう?」
「そうなんですか!?」
「まあ、本人が言ってきたしな・・・」
綾人さんはドアの方を見る。
「すっげぇー!ここが俺の部屋になるのか!!」
「椎名さん、感動するのは後にしてください。
運べていない荷物はまだあるのですから」
実は2位(実質3位)でゴールしていた椎名は
『楸先輩達と同じ部屋に移動したい!』とお願い。
自分達で荷物を運ぶ事を条件にあっさりと受理され、今に至る。
お金持ち学校なんだから引っ越し業者を呼んでくれてもいいのではないかと思ったのは僕だけだろうか?
あれだけ最後のマラソンにお金かけてたのに。
「優樹、夏目先輩、楸先輩。今日からお世話になります!宜しくお願いしますっ!」
椎名は段ボール片手に元気よく頭を下げる。
僕達は勿論、と笑顔を浮かべた。
────────
お疲れ様です!
体育祭、ようやく終わりです!
すっげぇー長かった。ホントに。
何ヶ月やってたんだよ、体育祭。(セルフツッコミ)
何はともあれ、ここまで読んでくださり
ありがとうございました!
さて、優樹君達の部屋がますます
賑やかになりますね。
今後(まだ小説では6月)どうなるのか
引き続き 宜しくお願い致します!
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