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個人的な感情
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「・・・んっ」
額が冷たい。
僕は重い瞼をゆっくりと開ける。
「すみません、起こしてしまいましたか。」
「っ!?」
夏目さんの姿が見え、いつの間にかベッドの上で横になっていた僕はガバッと身体を起こす。
が、夏目さんに肩を掴まれ阻止された。
「熱があったのにいきなり動いたら身体に良くありません。じっとしているのが苦手なんですか、貴方は」
はぁ、と夏目さんは呆れたように溜息を吐いた。
「綾人の時は大人しいのに・・・」
そして小声で何か呟いた。
「すみません。聞き取れなかったんですけどなんて言いましたか?」
「いえ、なんでも。・・・熱が上がったらいけないので、そのまま横になっていてください。」
夏目さんは僕の頭をゆっくりと撫でる。
そして、僕の頬に優しく触れる。
夏目さんの手も綾人さんみたいに大きくて、
でも綾人さんみたいに厚くてゴツゴツしてない、
スラッとしていて繊細という言葉が似合う手だった。
あと夏目さんの方がどことなく優しい気がする。
恐ろしいのには変わりないけど。
「・・・だいぶ熱も引いてますね。よかった。」
夏目さんは少し安心したような顔をする。
熱出たの、アンタのせいだけどな。
「優樹さん、お腹は空いていますか?」
夏目さんはテーブルに置いているお茶碗の中身を僕に見せる。
そこには湯気をほんのりたてる、美味しそうな香りを漂わせる玉子の雑炊が入っていた。
「食べられそうですか?」
「はい。」
では。と夏目さんは僕を一旦起こして、
そして スプーンで雑炊をすくって向けた。
「はい」
「・・・はい?」
「口を開けてください。食べさせて差し上げます」
「へっ!?」
この歳で食べさせられるのとか恥ずかしいんだけど。
「ほら、早く。綾人のは受け入れて私のは拒否ですか?綾人になら大きいのを突っ込まれてもいいのに、私のは無理なんですか?」
やめて!思い出させないで!
というか言い方!もっと他にあるでしょ!?
「た、食べますからっ。そんなに睨まないでください」
「目つきが悪いのは生まれつきで睨んでなんかいませんが?」
「・・・ごめんなさい」
地雷を踏んだ気がする。
もう嫌だ。この人と会話したくない。
僕は大人しく口を開けると、夏目さんは慣れた手つきで僕に食べさせる。
玉子の優しい味と丁度いい塩加減が口の中に広がる。
「お口に合いますか?」
「美味しいです」
「それはよかった。」
夏目さんは僕が飲み込むとまた雑炊をすくって口に運んでくれた。
そして、しばらくして雑炊を食べ終えた僕に夏目さんは指を伸ばした。
「すみません、ついていたので」
夏目さんは僕の口の端っこについていたご飯粒をさっと取ると、そのまま口に含んだ。
「夏目さん!?」
「はい?」
「い、今、それっ」
「別にこれぐらいで熱なんてうつりませんよ。」
熱もだけど!そっちじゃない!
あのカフェで2年も働いてるから感覚マヒってるからだろうけど、おかしいから!
少女漫画でしかそんなのしないからね!?
何でもない顔をして夏目さんはお茶碗をテーブルに置くと、チラリと僕を見る。
「優樹さん・・・すみません。」
「えっ、さっきのですか?あれはさすがにマズイですよ。熱とか・・・」
「それではなく、先日 貴方が初めてメビウスに来られた日・・・私が貴方に合わないから止めるように言った事です」
夏目さんは苦い表情を浮かべる。
僕としては熱がうつんないか不安で仕方ないんだけど。
「貴方は頑張っているのにその頑張りを否定する事を言って。申し訳ありませんでした」
頭を下げる夏目さんに僕はギョッとする。
「いや、しょうがないですよ。そんなの。だってド素人なのは事実だし、何にも知らなかったですし」
「だからといって私の個人的な感情で、貴方の頑張りを否定していい事にはなりません。」
「それは・・・ん?」
個人的な感情?
「個人的な感情って?」
「・・・・・・・・・」
夏目さんは黙り込む。
もしかして、新しく入ってくる子が次々勝手に辞めるとか、辞めるくらいなら最初からいない方がマシとか?
でも、鷹雅兄さんは足りないから僕を呼んだんだよね?
それだったら後輩を優しくして新しい子が入ってこないようにすればいいんじゃ?
・・・んー、ダメだ。さっぱりわからない。
僕は首を傾げて考えていると、夏目さんはゆっくりと口を開いた。
「・・・聞いても・・・」
「ん?」
「私の気持ちを聞いても、貴方は・・・私を拒絶しないでくれますか?」
「夏目さん?」
夏目さんは真剣な眼差しで僕を捉える。
「優樹さん。私は・・・」
その真剣な眼差しを僕は真正面から受け止める。
なぜか心臓が煩い。
「私は、貴方の事が好きだからです」
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