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キスまで45センチ ④
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「どこいってたの!」
「すいません、ドーナツ食べてて…すぐ着替えます!」
兄さんをいつも通りのスタジオの角に座らせ、衣装室へ入った。
カシャ、カシャともう聞き慣れてしまったカメラの音。
眩しいフラッシュが俺を捉える。
「隼くん、もう少し顎あげてー、いいよいいよー」
もうすっかり顔なじみになってしまったカメラマンさん。
いつものメガネを外し、額に掛かる髪を帽子で斜めに覆い、いつも笑顔を浮かべている口元には少し開いた相手を圧倒する様な表情を浮かべる。
好きな女の子に見て欲しい表情で、と昔言われたことを今も思い出して表情を作る。
最も、思い浮かべる最愛の人は、ーーーー女の子では無いのだが。
「じゃぁ今度は目を閉じて、上を向いてー」
カシャ、カシャと鳴り止まないシャッターの音。
ちらりと奥へ目をやると、俺を見て少し微笑む兄さんが目に入った。
それにつられて笑うと、カメラマンさんに
「その表情、サイコーだよ!」
と撮られてしまった。
結局、雑誌の撮影が2件にインタビュー3件が終わる頃には夜9時を回っていた。
「ごめんね兄さん、遅くなっちゃって」
(ううん、平気)
ずっと隅で待っていた兄さんをそっと抱き上げる。
ぎゅうと首に抱きついてくるその姿が可愛らしくて、思わず微笑んだ。
「ただいま」
ドアを開け、玄関で兄さんを降ろす。
リビングへいくと、母さんと悠一さんが一緒にテレビを見ていた。
「ただいま」
もう一度いうと、
「おかえり」
「おかえりなさい、蛍、灯夜」
しばらく前まで蛍くん、灯夜くんと呼んでいた悠一さんもずいぶんと慣れ、呼び捨てで呼んでくれるようになっていた。
「ご飯はできてるわよ、皆で食べましょう」
そう言って立ち上がる母さんに、俺は驚いて言った。
「えっ…待っててくれたの?」
時計は実に10時をさしている。
普通ならご飯を食べるような時間じゃない。
「ええ、皆で食べた方が美味しいもの」
「先に食べてて良かったんだよ?」
「待たれてちゃ嫌なの?」
「そうじゃないけど…」
(お肉♪お肉♪)
いそいそと席についた兄さんの隣へ座る。
「ほら、悠一さんも早く食べますよ」
母さんの呼びかけに、慌てて悠一さんが席についた。
「はい、兄さん」
鍋を器によそってあげると、兄さんは嬉しそうに微笑んで手を伸ばした。
冷ましもせずに兄さんはすぐに鍋の豆腐を口へ運び、あちっと言わんばかりに豆腐を落とした。
「ほら、ダメでしょ兄さん、ちゃんとふーふーしなきゃ…。口やけどした?」
べーと兄さんが出した舌は真っ赤になってしまっていた。
仕方がなくコップから冷たいお茶を口に含むと、その舌を咥えた。
ちゅっと吸い上げた後、同様に火傷したであろう口の中にお茶を口移しで流し込む。
こくこくと抵抗なく注がれるお茶を飲む蛍。
なでなでと頭を撫で、もう一度箸を持たせた。
「今度はちゃんとふーふーしてから食べるんだよ?」
(ごめんなさい…)
こく、と頷いて兄さんはまた箸を器へ伸ばした。
「兄さん、お風呂わいたよ」
ベッドの上でマンガを読んでいた蛍はもそもそと下着とパジャマの支度をするとくいくいと俺の服の袖を引いた。
(一緒に入るの…)
「分かってるって」
俺も着替えを持って兄さんに引かれるままにお風呂へ行った。
「はぁー…あったか…」
浸かって足を折る。
そうしないと中へ収まらないほど身長が伸びてしまったせいだ。
かたや兄さんは、じゃばじゃばとお湯に潜ったりして遊んでいる。
「兄さん」
(なあに?)
「喋っていいよ」
言うと、ぱちくりとしばらく目を瞬かせていたが、やがてぎゅうと抱きついてきた。
「兄さん?」
「とうや…」
けして大きくはないのによく通る、鈴を転がすようなはかなげで尚且つ耳に心地いい声。
滅多に聞けない上、俺以外には聞かせようとすらしないのだ。
「兄さん」
濡れた髪を手で掻き上げてあげると、薄い灰色がかった瞳が姿を現す。
電気に照らされ、その反射で鈍い七色に輝く、水晶のような瞳。
そのくりくりして大きな瞳の下にはピンク色をした口が控えめについている。
この顔のどこが見たく無い顔なのか。
「うぅ…はずかしい、よぉ…」
俺の足に挟まれ、俺の腕をつかんだまま蛍は瞳を斜め下に走らせる。
「あんまり見ないで…」
「兄さん、可愛いよ、すごく」
俺の手に比べたらずいぶんと小さく可愛い手で、俺の目を覆うと、
「もう、おしまいっ…」
と言って前髪でまた顔を隠してしまった。
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