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キスまで45センチ ⑥
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「兄さん、そろそろ俺行かなくちゃ」
(待って、今支度するから)
比島さんからあと5分くらいで着くというメールがあったので荷物をまとめ、兄さんの支度が整うのを待つ。
「もう帰るの?」
日和が首を突っ込んできた。
「うん…さつえ、用事があって。ごめんね」
日和に軽く頭を下げ、用意のできた兄さんが手を伸ばしてきたので抱き上げる。
「あ、もう比島さん来ちゃう!じゃあね、水凪くん」
「あぁ、また明日」
手を振ると、軽く手をあげて挨拶を返された。
「すみません比島さん。遅くなりました」
「いいわ、あまり待って無いから。ほら、早く乗りなさい」
比島さんに急かされて、兄さんをまず座らせてから自らも後部座席に腰掛ける。
扉を閉めると同時に、車が緩やかに発進した。
「比島さん、あの、今日一緒に撮影をする人なんですけど」
「あぁ、甘利隆治くん?」
「はい。どんな方ですか?」
「最近出てきた新人アイドルよ。ファンの年齢層は大体中高校生くらいね。そういえば…貴方達と同じ学校の芸能人用の特別クラスじゃなかったかしら」
…同じ学校?
(ねぇね、僕、灯夜がお仕事してる間、比島さんとお出かけしてもい?)
「何処に?」
(買いたいものがあるの!)
「…うん、いいよ。比島さん、俺が撮影している間、兄さんを連れて買い物に行ってもらえませんか?」
「良いけれど…何処に?」
(灯夜には内緒!)
「え?……俺には内緒らしいです…」
「…ふふ、いいわ。連れて行ってあげる」
珍しく、比島さんが少し笑った。
…なんだろう?
撮影所に着き、着替えて現場に入ると、それを待っていたらしい兄さんが、わざわざ寄ってきた。
(終わるまでには、戻るから!)
「分かった。比島さんに迷惑かけちゃダメだよ?」
(むっ……分かってるもん!!)
「はいはい。比島さん、それじゃあ兄さんのことお願いします」
「分かったわ。撮影が終わるまでには戻るから貴方も集中するのよ?それじゃあ蛍くん、行きましょうか」
(うん!ばいばい!!)
ぱたぱた手を振ると、比島さんにくっついて走っていく可愛らしい後ろ姿に思わず微笑んだ。
「甘利くん入ります!」
監督さんかカメラマンさんか、誰かとあげた声でふと目をあげると、知らない男の子がフレンドリーに手を振りながら入ってきた。
きゃあきゃあと黄色い声を上げている女の子たちが撮影所の端で手を振ったりカメラを構えたりしているが、服装からしてうちの学校の生徒に間違いはなさそうだ。
「甘利くーんこっち向いてー!!」
「かっこいー!!」
女の子たちから声が飛ぶたびに、甘利は政治家のように手を振り、愛想を振りまいた。
「あ、君が今回一緒に撮影をするとか言う人?宜しくね、隼」
突然の呼び捨てに少しびっくりしたけれど、きっと甘利はそういうキャラなのだろう。
「よろしくお願いします、甘利くん」
「硬くならなくていいよ、同い年って聞いてるし。仲良くしよう」
「…うん!」
差し出された手を素直に握った。
何だ、いい子だ。
仲良くなれるかな、と少し気が軽くなって微笑む。
その瞬間、女の子たちの一部が俺に対して黄色い声を上げた。
慣れていない俺はどうしようかと思ったけれど、すぐに甘利が
「ほらほら、びっくりしてるだろ?ダメだよ急に」
と言ってくれて、女の子達はそのコメントにも声をあげていた。
すごい、本当に芸能人って感じだ。
俺自身が生で表に出ることが少ないから、甘利に感心した。
…その表情が、こわばったのを知らぬまま。
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