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おやつ
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羽柴の家で三人は、夏休みの宿題をすることになった。
後藤は寝坊したらしく、一時間ほど遅れるとのこと。
倉内が羽柴の家を訪問すると、羽柴の母らしき女性が目を丸くして、それから表情を輝かせた。
「あら…。あらあら!友達が来るって聞いていたけど…、もしかして、彼女かしら?まさか、こんなに可愛い子がうちに来る日が来るなんて」
「はじめまして。いつもお世話になっております。
倉内 静といいます」
否定せず、倉内はにっこりと微笑んだ。悪戯で、羽柴の反応を見てみようと思ったのだ。きっといいリアクションをしてくれる。
「稜ちゃん、彼女が来たわよ!!」
家中に響き渡るような明るい呼びかけに、
「はあ~?俺、彼女なんかいない…け、ど」
二階から怪訝そうな声で、羽柴が降りてくる。羽柴は自分の母親と友人を見比べ、それから肩を落とした。
「あ~、お母さん。この人男。残念ながら、俺の彼女じゃありません。仲の良い友達なの。…もう、倉内!なんでそんなこと言うかな?」
「そうなの~?残念ねえ。
稜ちゃんと、仲良くしてやってくださいね」
「すみませんでした。
羽柴のリアクションがいいから、つい…」
「つい、じゃないよもう。…はあ。俺、そんな顔されると怒れなくなっちゃうじゃん。美形はずるい」
ぶつぶつ呟きながら、羽柴は倉内を部屋へ通した。
たとえその本心がどうでも、納得させられるだけの説得力がその顔にはあると…羽柴は常々感じている。
「羽柴は恋愛に興味ないの?」
「興味ないなぁ…。今は他に、楽しいことが沢山あるし」
「どういう子がタイプ?」
「うーん…。別に倉内のせいにするつもりはないんだけど、毎日女の子より美人な倉内の顔を見ていたら、俺、それで充分っていうか…事足りてるんだよね」
「………」
まじまじと自分の顔を見ながらそんな風に言われ、倉内は溜息を返した。
減るものでもないから、見たいならいくらでも見ていいと相手が羽柴なら思うものの、それはそれで何かが間違っているような気もする。
「倉内は毎日、男から告白されてるよね」
「僕は好きな人がいるから。完全に片思いだけどね」
「そうなんだ?
倉内に好きになってもらえるなんて、羨ましいかも」
「そうでもないみたい。割と迷惑そうだよ」
相手のことを思い出すと、倉内は恋の喜びというよりはひりひりした胸の痛みを感じる。その現実がすごくせつない。いっそ諦めることができたら、楽になれるのに。
「押しが強いんじゃないの?」
「そうなのかなぁ…」
「俺さぁ、マサと秋月先生がキスしてるのを見た。…謹慎中、マサの家に行った時」
言おうかどうしようかずっと迷っていた。けれどあの日から、二人の間で何かが動き出しているような気がする。
「え…」
「大人ってよくわからない。秋月先生はわかりやすいけど、何か隠してることが多分あって…それでマサは混乱してる。ように、見える。でも、俺がどうこうできることでもないから」
単純に、友人の恋を応援しているわけでもなさそうだ。
ストローで麦茶の中の氷をつつきながら、羽柴は複雑な表情をしている。後藤と同じクラスということもあり、自分よりも見えるものが多いのだろうと倉内は思った。
「よく見てるね。後藤は一直線だし…。フミちゃんだって後藤のことを好きなのは、僕もわかる」
「うーん。隣にいたら、自然にわかるでしょ。
俺はそこまで鈍感じゃないし」
「僕は、二人がうまくいったらいいなって思う。そういう結末を、望んでしまってる。自分のことじゃないのにね」
何かしら、返ってくるものがある。お互いに惹かれ合っているという確信がある。そのままを受け取れば、二人で進んでいけるのではないだろうか?
そんな未来を見せてほしいと、倉内は願っていた。
「俺はマサが笑っててくれるなら、秋月先生とどうなろうがいいんだけど。つらそうなのは、見てられないかも」
ただ、自分の大切な人には幸せになってほしい。
思うことといえばそれだけで、その表現方法がどうあるべきかなんて、よくわからない。
「ほんとに後藤のこと好きだよね。羽柴は」
「俺、倉内のことも好きだよ」
「うん。ありがと」
真摯に想いを伝えてくれる友人の頭を撫でると、羽柴から戸惑った声があがる。
「わっ…と。俺は、犬じゃないんだけど」
「撫でたくなったから。あ、後藤来たみたいだね」
インターホンが鳴る音がして、ほどなく後藤が部屋にやってくる。じゃれ合っている二人を見て、進捗状況を察したようだった。
「おいおい、全然はかどってなさそうな雰囲気だな」
「羽柴の頭を撫でてた」
夏休みの宿題とは無関係な返答に、後藤は笑う。
「一体何やってんだよ…。お前ら」
「聞いてよマサ!倉内ってば、俺の彼女です〜なんてお母さんに言うもんだから、お母さん、真に受けちゃって赤飯炊きそうな勢いだったんだよ。もう、ビックリした!」
「…羽柴と静が付き合ったら、羽柴がもたないだろ」
「え?」
「何それ」
「ドキドキしすぎて死ぬ」
その言葉に羽柴は唖然と瞬きを繰り返し、倉内は反論する。大体どうして、こんな話の展開になってしまったんだろう。
「こうやって毎日会ってるのに?そんなわけないでしょ」
「わかってねえな…。静、お前自覚はあると思うが割と、可愛い顔をしていると言えなくもない。オレの好みじゃないにしろ、羽柴にはそれがすごく有効って話だよ。
コイツ、綺麗なものが好きなんだから」
「あーもう、何でそんな話になるの!やめやめ。真面目に勉強しよ。俺、マサに英語教えてもらいたかったんだ」
耳まで真っ赤になった羽柴が、振り切るようにノートを広げた。
「羽柴、顔真っ赤だよ…」
思わずツッコミを入れてしまうのは、やはり羽柴のリアクションが一級品だと感じるからだ。倉内から目を逸らし、吐き捨てるように羽柴が続ける。
「俺はまだ死にたくないから、倉内のことなんか好きにならない。恋愛に興味がないって言ってるでしょ!
もう、ほっといて」
うるさいと、おやつあげないよ。
羽柴がとなえたその強力な呪文の効果は絶大で、室内は平和な沈黙を取り戻すのだった。
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