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※沈黙と嘘
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2学期末のテスト期間が始まった。
後藤は悶々とした気持ちで教科書を睨みつけ、深い溜め息をつく。
テストが終わるまでの間、勉強に集中してほしいとの秋月の思いから、セックス禁止令が出されたのだ。しかも校内では、秋月にさりげなく距離をおかれている。
その離れている距離の分だけ、長谷川がいつもより秋月に近づいているような気がして、気が気でないのだ。おそらくそれは、残念なことに自分の思い過ごしではない。
長谷川は虎視眈々と、秋月の恋人の座を狙っている。立場の違いをまざまざと見せつけられているようで、面白くない。
「はぁ…」
「マサ、3日目でその溜息は重いよ」
問題集を目の前に、溜息というよりは勉強にうんざりした様子で羽柴もそう呟く。
「二人ともいい?日頃、しっかり復習していれば…。
テスト勉強なんて、範囲を読み返すくらいでいいんだからね」
呆れたような表情の倉内に、後藤と羽柴は顔を見合わせるのだった。一人だけ、空気の重さが違いすぎる。
「お前と一緒にすんな。静」
「倉内ってすごいねぇ…。欠点が見つけられない。あ、ちょっとお節介なところがあった!時々オカンみたいだなって俺思っ」
「あっそう?それなら僕は、羽柴の自由と頑張りを尊重して、逐一質問に答えるのは辞めるから。
自力で解決するんだね。勉強に飽きて脱線しててもそっとしておくし、羽柴は思う存分羽を伸ばして、期末テストに挑んでください」
思いやりを言うに事欠いてオカン、だなんて。失礼にも程がある。
端麗な眉をひそめて、苛つきを押しとどめようともせず、倉内は早口で応戦した。舌戦で、この男に敵う者はいない。
「うわあ。正論なだけに感じの悪い返しが来たよ、マサぁ!そんなに怒らなくてもいいじゃん。倉内、心が狭いよ」
「もう!羽柴が、馬鹿なこと言うからだろ」
面倒見は良くても、心が広いのとはまた違う。
倉内が軽く睨むと、隠れるように後藤の背中に移動しながら、羽柴はぐすんと鼻を鳴らした。少し可愛く感じてしまうようなその仕草は、計算なのかどうなのか知らないが、怒りがそがれる。
「うう…。ごめんなさい、頼りにしてます。倉内先生」
「大体、お前の倉内に対する美形補正はあてにならない。
俺はただでさえ良いと言えない、今の成績が落ちるとヤバイんだよ…。今後の楽しい学校生活、もとい人生がかかっていると言っても過言じゃない」
後藤が頭の中で思い出すのは、テスト期間前の夜、二人で過ごした時間のこと。秋月が焼いた秋刀魚を食べた後、コーヒーを飲みながら、テストの話になった。
『学生の本分は、勉強だからね。
勉強って、今はしんどいかもしれないけど、大人になった時に後藤くんのことを必ず助けてくれるから、今、逃げずにコツコツ積み重ねていった方がいいよ。僕と付き合うことでそれが難しいっていうなら、僕は別れる方を選ぶ』
真剣な眼差しでそんな風に言われてしまっては、頑張るという返事以外にできるはずがないだろう。男として。後藤が頷くと、秋月は本当に嬉しそうに微笑んで、ありがとうと続ける。
『後藤くん。
いつも僕の気持ちを尊重してくれて、ありがとう』
『そんなの当然だし…。
これからも、ずっと、大事にするから』
その後は勿論、
「もしもし、後藤?起きてる?寝てるなら、一発で目が覚めるようなプレゼントをあげるね」
「いやいや起きてるだろ、ちょっと待て。
起きてる、真面目にやるから!」
真顔で腕を振り上げた倉内に慌てて、後藤は身体を退く。やっぱり、自室でなく倉内の部屋に来て勉強をする、という提案は正解だった。
自分の部屋なら間違いなく、ベッドに直行して別の行為を始めていた。
倉内は神妙な表情で、そんな一連の後藤の表情を眺めてから視線を外す。
「ああ、やだやだ。お前の感情の機微が読み取れてテストの点数が上がるならいいけど、気持ち悪いだけで何の得にもならない」
「言ったな?」
「あーもう、二人ともうるさい!
喧嘩する暇があるなら、倉内は俺に勉強教えて!!」
誰よりも大きな声で羽柴はそう文句を言うと、静まりかえった室内に、これで勉強もはかどりそうだねと続けて、空白だらけの問題集を倉内に差し出す。そんな友人を横目で見ながら、後藤も教科書の暗記を再開させるのだった。
***
『飲みに行きませんか?秋月先生』
『いえ。生徒が頑張って勉強しているのに、自分だけ羽目を外すわけには……』
『ではお酒無しで、少しだけ食事に付き合って下さい。いいですね』
夕暮れに、秋月は長谷川と確かこんな会話をかわしたような記憶がある。そこまでは憶えている。
(どうして…僕……)
「あ…ぁっ、ん……アンッ……!」
揺り起こそうとした記憶は、強すぎる快楽に一瞬で消えていった。
秋月が抱かれているのは年下の恋人ではなく頼れる同僚で、見透かされている弱い部分を愛撫するように突かれてしまって、なすすべがない。
(一緒にお寿司を食べたような…気がする……)
熱燗をすすめられ、断り切れなかった。段々と思い出してくるのは、そんな夕食の時の出来事。
「あなたがそうやって、可愛い声を出すから…!求めてしまう。私は、我慢が出来なくて……」
「は、長谷川先生…!…はぁん……あっ……だめっ、そんなに突いたら…ぁ!ダメッ、駄目だめっ、イク…イクのっ……あ、あ、あ、アァンッ!」
我慢が出来ないのは秋月も同じで、嬌声をあげながら長谷川にしがみつく。
「こんなにミルクを飛ばして…。あぁ…秋月先生のマンコ、ピクピク痙攣して、気持ちいいですよ。俺のセックスで、こんなに感じて……!」
「あ…んぅ…やぁっ……」
日頃ストイックで真面目な長谷川に言葉攻めされると、興奮してしまう。理性の奥でこんな激しい熱情が自分に向けられているのだと思うと、放っておくことが難しい。
「ほら、俺のペニスに嬉しそうにグチュグチュとキスする音、聞こえるでしょう?」
「キスだなんて……あ、あ、…んんっ……」
「出るっ、もう、我慢できないっ!うっ、先生っ……気持ちいい、あ、秋月先生!先生!」
「…あぁ……熱いのっ…溶ける…セックスで溶けちゃうよぉ…」
何も考えなくていい瞬間。何もかもから、解放されているような幻想を抱く時間。
「っああ!!はぁ…っ」
「まだですよ、秋月先生。こんなにトロトロで気持ちいいのに、止めるなんて無理です。ね?ね、俺のチンポも気持ちいいでしょう?」
「ふぁあ…硬いの、またっ……ズンズン来るよぉっ!ダメッ、変になゆっ…長谷川先生のチンポ、すごいの……だめぇ!あっ、アッ、アン、アアッ……!」
「可愛い、秋月先生…。他の男のチンポで、グチョグチョになってしまう、先生のこと…愛してます」
現実を思い出すような低い囁きに、秋月はくらくらと眩暈がした。
気持ち良くまどろんでから、自分を見つめている視線からふいっと顔を背け、文句を言う。
本当は、誘いに乗らなければいいだけの話なのに。自分のずるさを棚に上げ、秋月は長谷川の優しさに甘えるのだった。
「もう、長谷川先生ったら…。
食事だけだなんて、嘘ばっかり」
「すみません。
大人げないのは、わかっているのですが…」
少しも悪いと感じていないくせに、表面上は取り繕ってくれる。長谷川のそういうところが居心地良く、自分とも相性が合うのだろうと秋月はぼんやり思った。
「…そんな顔されると、これ以上何も言えないじゃないですか」
「あなたの性格を、よくわかっているもので…。
何か、飲みますか?」
「……温かいコーヒーを下さい」
「承知しました」
微笑んでいそいそとキッチンへ去っていく背中を見ていたら、セックスの最中のみならず長谷川の好意を感じて、秋月は首を横に振る。
(後藤くん…。後藤くんが試験勉強を頑張っている時に、ごめんね)
一緒にいない時間に何があったかを、報告するような性格などしていない。
愛の中に沈黙と少しの嘘を混ぜ込んでいるのは、お互いの平穏という幸せの為なのだ。
(全く説得力がなくても、僕が愛してるのは、後藤くんだけなんだけど…)
秋月は誰にも言えない謝罪を心の中で唱えながら、近づいてきたコーヒーの匂いに罪悪感を紛らわせ、そっと手を伸ばした。
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