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優先される理由 07歩
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「しばらくこのままだろうから、今話す。どうしてお前がここにいるのか」
「………」
「コウ…この前バイト先で初めて会ったときにそいつの家で数人で飲んでた。昨日もそうだったから行ってみたら、七瀬くんに柚月の置かれている立場?を聞かされたんだ。そしてお前の体調のこともな」
やっぱり、な。色葉くんは、僕が楢崎さんに気を許していることに気が付いている。
それで教えたんだ。
「それで、まあ色々話して俺が連れて帰ることになったわけ。コウたちには説明して、お前の退勤時間に合わせてバイト先に行って引き取った。話すのはこれぐらいか?」
大分楽になったから、楢崎さんの手を離し、顔を上げた。
楢崎さんは、顔を上げた僕に優しい目を向けてくる。見た目は大きいし怖いのに、僕なんかにこうやって優しい目や優しさを僕にくれる。
その度に、どうしていいか分からなくなる。
「どうして…僕を連れて帰ったんですか?友達の家にいたのなら、そっちを優先しますよ、普通」
赤の他人の僕なんかよりもね、と言うと楢崎さんは一瞬傷付いた表情になった。
どうしてそんな表情をしたのか僕には分からない。
だって、嫌われ者の役立たずの僕だよ?普通、そんなやつ優先しないよ。
ストレス発散に殴ったりするのなら別だけど、そういう訳ではない。だから分からない。
「まあ、柚月には分からないよな」
そう言って、楢崎さんは悲しそうに僕の頭を撫でた。
それからは何となく気まずくなり、温め直されたお粥を食べて、片付けをして帰った。
この日は飲んだあと以外で楢崎さんの家に来て初めてココアを飲まなかった。
それが酷く寂しく感じた。
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