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死に損ないと変人 03歩
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とうとう海水の高さが、腰の位置まできた。
もう少しだ。
21年間生きたんだ。もう十分。
両親には何も親孝行が出来ていない。しかも、これが人生最大の親不孝を今からする。
夜勤のみんなには、本当に申し訳ないことをしたな。でも、もう僕がいなくなるから当たりは弱くなるんじゃないかな。そうだといい。
そういえば、最期まで楢崎さんの悲しそうな表情の理由や、友達より僕を優先する理由が分からなかったな。これでも、一週間は考えたのにね。
ああ、最期に楢崎さんのココア飲みたかった。今更だけど、僕の行きつけのカフェのココアと味が似ていたなあ。
そして、海水の高さが肩の位置まできた。波のせいでたまに顔にかかる。
涙なんか出てこない。
ようやく死ぬ覚悟が出来たから、喜びの方がある。
僕が死ねば、あの人たちは笑って嬉しがりそうだな。「死ね」って、ずっと言っていたしね。思うツボになるのは嫌だけど、まあいいや。
海水の高さが口の位置まで来たとき、気のせいか僕を呼ぶ声が聞こえた。
楢崎さんみたいな声だな。でも楢崎さんがここにいる訳はないから幻聴だと思う。
きっと死神の声なんだろう。
もう溺れそう…。
僕は、さよなら、と心の中で呟いた。
そして、そっと足を浮かせ、顔から海の中に沈めた…
つもりだった。
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