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兄弟と恋人と初夜と。(一カラ)3
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「可愛いな!」
「……うん」
テレビなんか見てられないと思ったはずなのに、選んだチャンネルが猫特集とかしてたお蔭で僕とカラ松は無事平穏に画面を眺めている。
逆にもったいない事をしたのかもしれない。あの雰囲気だったらどさくさに紛れて色々できたかも。
「一松は右の子と左の子どっちの方が好きなんだ?」
「あー……右」
「わかるぜ。俺も右だな」
うんうん頷いてカラ松は言う。
こういう時の好みはなんでか被るな。
それが嫌だと思ってた時期も正直あった。今なら、素直に嬉しいかな。絶対言いはしないけど。
まだテレビに可愛い可愛い言ってるカラ松本人が可愛い生き物に見えるんだけど、それは流石に恋人の欲目ですかね。
そーっとカラ松の手を握ってみる。
指先を絡めたら、ぎゅっと握り返された。
繋げた手から体温が伝わってきて、くすぐったい気持ちになってくる。
「好きだぞ」
心に染み入る、落ち着いた声色。僕の好きな声だ。
突然、繋いだ手が一際熱くなった気がした。
僕もだって言おうと思って口を開けようとしたら、口の中が変にかわいてすぐに声が出なかった。
一呼吸おいて、答える。
「ぼ、」
「一松!飯にするか?」
なんだ、この切り替えの速さ。こいつマジでフラグクラッシャー松かよ。
なんでわざわざ被せてくるんだよ。普段自分が存在感薄い空気のくせに、空気を読むって事はできないの?
「ん?どうしたブラザー」
「うるさい黙れ」
「えっ……ごめん……」
何がなんだかわからない、と顔に書いてあるクソ松。
こいつがこうなのは今に始まった事じゃない。気にするなと自分に言い聞かせた。
「で、飯って言った?」
「あぁ。一緒に食べないか?」
こっちは元よりそのつもりだ。
欲を言うなら、その他も一緒にしたい。けどやっぱり想像がつかないせいで勇気も出ない。
飯中、カラ松は朝どこ行って何したとか内容の薄い話を披露した。
内容的にはどうでもいい話でも、こいつの話ってだけで結構聞けてしまう。
それも途中までだったけど。終盤辺りになってくると、この後控えているイベントが頭にのしかかってきてカラ松の話は右から左へ流れていく。
そういう自分をごまかしたくて、テレビを見ているフリをしていたら。
「一松、風呂空いたぞ?」
と、バスローブ姿ではないけど、濡れた髪にタオルをかけた明らかに風呂上がりなカラ松に言われた訳で。
「……先入ったんだ」
「あれ?さっき声かけたんだけど、一松テレビ見てたみたいだったから……一番風呂が良かったか?」
問題はそこじゃない。
でも、まぁどうせ一緒に風呂なんて無理だしいいや。
ここまでくるともうなんか吹っ切れた。
どうせ……何もできる訳ないし。こいつが何も考えてないのに、僕が手を出せっこない。
結論が出れば悩む事もなかった。
その後のイベントも何事もなく普段通り終わらせ、じゃあ布団を敷こうかとなった。
押し入れを開けて、僕とカラ松は布団を両端から持って引っ張り出した。
どさりと布団が落ちる。そこまでは普通だった。
同時に何かが落ちてきて、布団の下敷きになってしまうまでは。
「なんか落ちたな……?」
カラ松は布団の下に手をつっこんで、それを取った。
なんだろう。袋?僕のとこから中身は見えない。
袋を開けて中身を確認したカラ松は、何も言わず、僕を見た。心なしか顔がひきつっている。
「……?」
カラ松の後ろからのぞきこんだら、その理由がわかった。
「一松……」
「違う」
「あの、あのな。落ち着いて聞いてほしいんだが……」
「だから、違う。僕じゃない」
「その……な?確かに今日は二人きりだけど、なんていうか」
「おい、違うって言ってんだろ。聞けよクソ松」
袋の中に入っているもの。
それは、どこをどう見てもローションの瓶とコンドームの箱にしか見えなかった。
長男、あの野郎……マジぶっ殺す。
「そ、そうかぁ……一松、そういう事考えてたのか……」
小刻みに震えるカラ松は、じりじり僕と距離をあける。
そういう事は考えてなかった訳じゃないけど、これはなんか違う。自分の意思じゃないし。
「それは僕が用意したんじゃないから!」
「……そうなのか?」
「そうだよ」
カラ松は袋と僕を交互に見た後、ふぅっと息を吐いた。
「そ、そうだよな?すまない、少し驚いてしまった」
気を取り直したらしいカラ松は、いつもの調子に戻る。心底ほっとしたのが見てとれる。
チリ、と胸が焦げた。締め付けられるみたいな、胸の痛み。
「じゃあこれはとりあえずどこかに……」
袋を無造作にのけて、布団を敷いているカラ松を手伝いもせずにただ眺めた。
眺めて……というより、ぼんやり見ていた。
敷き終わって満足気なそいつに、口が勝手に動く。
「カラ松」
「ん」
「そんなにあり得なくて、嫌な事?」
「……何がだ?」
「僕とセックスするの」
はっきり口にしたら、カラ松はかたまって動かなくなった。
やっぱり、そうなのか?
付き合ってるだの恋人だの口では言ってみたってそれだけなんだ。結局今までと何も変わってない。
いつまでたってもこいつの中で僕は兄弟の枠に収まっていて、そこから出る事はないんだろう。
なんで、こいつなんか好きになったんだ。こんな報われない。好きになんてならなきゃ良かったのに。
「……そうだな」
自分の中で淀む暗い感情を、そのまま肯定された気がして、一瞬心が冷えた。
でも、当たり前ながら僕の考えに対しての返答じゃない。
「その……ごめん、ちゃんと考えた事がなくて」
わかってるよ。お前にとって僕との関係なんて、その程度なんだ。
「だから、今ちょっと考えてみたんだが」
どうせ、ママゴトみたいな恋人ごっこなんだから。
「ありだな」
「……は?」
何が?……ありだって?
カラ松が何を言ったのかわからなくて、言葉を反芻していたら、更に続けられる。
「俺と一松は恋人なんだから、そういう事するの別におかしくないよな?だから、ありだなって」
いやいや、そこドヤ顔で言うとこじゃないから。
「じゃあ」
「じゃあ?」
「今セックスしてもいいって事だよな?」
「……えっ?」
またそこまで考えてませんでした、のパターンだこれ。
ここから、冒頭に戻る。
カラ松は置物化してしまい、僕も多分、喋るとこじゃない。
あんまり待たされるから実は頭カラっぽカラ松になって何も考えていなんじゃないかとか。またはこんな状況の割に静寂と孤独なんて一人楽しんでんのかと疑念にかられてしまう。
もしお前が楽しめても僕は絶対に楽しめないからな、この二人っきりな上微妙な雰囲気の現状。
今日はちょっと急だから……の流れからのじゃあ一緒に寝ようか!(添い寝)って考えただけで辛いものしかない。本当に色んな意味でキツい。
って、流石のこいつもそんなに能天気じゃないか。
顔色見直してそう考え直した。でも成人男性としては顔真っ赤になっちゃうのはまずいんじゃないかとも思うけど。
突然今からヤろうって話になったら、ビビるよな。無理ですよね。
長男を恨む。いくらなんでも仕込みすぎだし直球すぎなんだよ。だからこんな事になるんだ……
帰ってきたら覚えてろよ、と心の中で毒づいていたら聞こえた一言。
「……いいぞ?」
逆に、こうなるパターンを僕が考えてなかったかもしれない。おそ松兄さん、ありがとう。
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