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海の底を照らす明(長兄松/雰囲気短文)
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その柔らかい頬を、両手で包み込む。
親指で優しく、跡をなぞった。まだ湿っている。
「……笑ってよ」
水分を含んだ瞳の中に落とすように、静かに呟いた。
ちゃんと落とせた?俺の心。お前の一番深いとこまで、届いたのかな。
まぶたがゆるりと閉じ、また目の縁を水滴が零れる。
「……、でき、ない」
途切れ途切れに絞り出された声は、俺の意図に反した返答だった。
「なんで?」
もう音もなく、ただただ、首を振り。
捕まれた俺の服はぐしゃぐしゃになっていて、それはそのままこいつの気持ちなんだろうなぁ、とか。
「笑って」
「むり……」
「違うでしょ。俺は別に、お前に幸せでいて欲しいから笑ってほしいとか、そんなくっさいセリフ言うつもりないよ?」
「え」
「俺が笑ってるお前を見たいだけなの!お前が笑えないとか、できないとか言ったってそんなの俺にかんけーねーもん」
ほら、だから笑え笑え!
そうワガママを押し付ければ、戸惑った表情を浮かべる。
でも、もう頬は乾きつつある。新しい跡もつかずに。
「……自分勝手だ」
「それが俺ですから?」
親指を立てて、胸につき当てて見せた。
「そうだな、……そうだよな、いつも」
堪えきれなくなったように、笑い声を漏らす。
あぁ、ようやく笑った。お前にはわかんないかもしんないけど、俺はお前が笑うの見るの、本当に好きなんだ。多分、パチンコの次ぐらいに。
あーうそ、パチンコよりは上って事にしといてやる。
パチうってこんな、じわじわあったかくなるような感覚は味わえないからな。
「俺の前では笑っててよ」
「……わかった」
「あ、でも」
ポン、と頭に手を置いてなで回した。
「無理に作り笑いするなよ?泣きたきゃ泣いてもいいしさ」
「……どういう事だ?笑えばいいのか?泣けばいいのか……」
狼狽えるそいつが堪らなくいとおしい。
「だから、泣きたきゃ泣いて、最後には笑ってよ。今みたいにさ」
お前の感情、全部引き受けてやるから。
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