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Act.15 執事服
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「ちょっと待ってください!」
僕の言葉は誰にも届きません。今までも届いたことはありませんが。
最近、気が付きました。聞こえないんじゃなくて、聞かないんじゃないかなって。絶対そうですね。聞こえてても知らん顔を決め込むのが得意な人しかいないようです。
そして今は、監督にどんなシチュエーションか、聴く必要もないですね。大体、想像ついてますから。まあ一応、確認させてください。宅配便のお兄さんに襲われる役どころですよね。あの手錠ってそうでしょう。
「最近、流れがよくわかってるねぇ」
監督、そこって褒めるところではありません。何しろほとんど中身ありませんから、僕にだって安易に想像できちゃうんですよ。
「監督、この服……もう少しオシャレなのが良いな」
オミさん相変わマイペースです。
「じゃあ他の制服に着替えてきて良いよ。隣に衣装まだあるから」
結局何でもいいのですね。でもオミさんが出て今がチャンスです。ぜひ帰らせていただきたい!……無理ですよね。そうでしたね。
「齋藤ちゃんこっちね」
監督に呼ばれて諦めました。あれ?オミさん?もう戻ってきたのですか。黒いスーツに白い手袋、ポケットチーフもおしゃれですね。
執事ですね、驚くほど似合っています。かっこいいです。
「お待たせ、将生」
いえ、ほとんど待っていません。
「似合ってます」
つい声に出てしまいました。にっこり笑うその顔は香月さんそのものです。あ、二人とも香月さんでした。
「そう?見とれてる?」
あれ?オミさんでも柚人さんでも同じってそれってかなりまずいですよね。
「え?あのっ……」
腕の中に抱え込まれてぎゅっとお腹の奥がねじれたような気持ちになりました。
「良かった、ここ何日か連絡取れなくて心配だったんだ」
「ゆ、柚人さん?」
「え……まさか、兄貴と勘違いしたの?そう……へえ。これは、ちゃんと覚えてもらわなきゃね」
何だか、地雷を踏んだようです。不服そうなのに笑う香月さんがこわいです。この後の展開が想像ついてしまうだけに……。
「どうして、ここって解ったんですか?」
「雑誌の撮影からそのまま将生を迎えに行ったら、大騒ぎになってたよ。宅急便の人に連れ去られたって。焦ったよ、とりあえずここに来てみて良かった」
そうでした、あのアパートもう解約ですね。
「監督、代打連れてきたからそっちで間に合わせてよ、俺これから将生連れて帰らなきゃいけないから」
代打って……え?翔太さん?
「将生、俺たちあのまま閉じ込められるかと思ったよ。お前ひどいな」
いえいえ、よーく考えてみてください。元凶は何だったのでしょうね。身に覚えはありませんか?
「帰るよ」
そう言われて、なんだか嬉しくなりました。もう引っ越すしかありませんよね。
【制服 おしまい】
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