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A t.16 ジントニック
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すっかり香月さんは忘れているようですが、僕はずっと縛られたままです。
ご機嫌に鼻歌交じりでお酒の瓶をテーブルに並べ始めました。
「将生、今日はさ、ゆっくりと楽しもうね」
そう言われても楽しいのは香月さんだけだと思います。
「あの、これ外しては……もらえないんでしょうか……」
もう一度、念の為に聞いてみます。
「え、何を?どれを外すって?」
「いえ、何でもありません」
ああ、絶対に怒ってる、怒っていますよね。香月さんは僕のことを本当はどうしたいのでしょうか。
「あの……香月さん、そろそろ辛いのですが……」
「なんで?辛いのは俺でしょう?」
香月さんが俺を睨んで言います。
「で?なぜ兄貴と一緒だったの」
そこですか、これじゃあいつもの堂々巡りですね。
「もしかして、ヤキモチですか?」
「え?俺が……そうかな…そうかも知れない。うん、そうだ。悔しいんだ、将生にはどうしても俺が一番がいい」
あれ?なんで素直なのでしょう。こんなに素直だとかえってこのあとが怖いです。
「えっと、冗談ですよね?」
「俺は、きちんと結婚してって将生に言ったのに。はぐらかすからこうなるでしょう?」
はぐらかすとか、そういう前に僕って男じゃなかったでしょうか。日本の法律でどうやったらその結果にたどり着けるのでしょうか。教えて欲しいです。
それと、さっきから水のように飲んでますが、それアルコールですよね?
「あ、あの香月さん?その透明な液体は…」
「これ?ジントニック」
えっと何杯目でしょう。あ、かなり……かなり酔ってますね。
「香月さん、出来れば話を僕の話も聞いてほしいかな」
「何?聞いたらいい事あるの?」
もう駄々っ子ですね。
勢いよくグラスを開けるとジンを勢いよくグラスに落とす。煽るように飲み込むと、俺の方を振り返った。
「あれ?ま・・・さき?なんで、そんな格好してるの?」
え……そうなります?そうなりますか、酔ってますしね。
「外してくださいね」
「んー?どうしようかなあ?」
ふふふと笑うと香月さんは床に座り込んでウトウトと眠ってしまったようです。今、火事になったら確実に二人の死者が出ます。
そして俺の焼死体はカエルの干物のようになるでしょう。笑えませんね。
「香月さんっ!起きてください、解いてくれたらなんでもします!」
そう言うと寝てるはずの香月さんがニヤリと笑って立ち上がりました。
「今言ったよね、なんでもするって。これくらいのアルコールで酔うわけないでしょう」
騙されました。まあ、いつもですが、またです。僕のデフォルトは誰かの嘘に踊らされる事なのですね。
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