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Act.16 梅酒
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「ん……んんっ…」
「将生、もう無理だから。これ以上は無理だ」
香月さんの声が、ぼやけて薄い輪郭だけになったみたいです。
「き……もち……い……」
手と足をつないでいたと思った拘束具は、引っ張るとパキっと小さい音を立てて外れました。あまりにもあっけなく外れて、驚いたくらいです。
「将生、本当に。困ったな子だな、こんなに……」
「香月さん、ねえ…もっと…もっと……」
「だから、将生。もう無理だよ。一滴も残ってない」
飲んでいた梅酒の瓶を俺の目の前で揺らしながら、困った顔をした香月さんがいます。一滴も……ああ、空なのですね。
「え、もう空なんですか?もう飲めないんですか?」
せっかく楽しく飲んでいたのに。あれ?飲んでいた?って何を?それも裸で……これ…でも美味しいです。
「将生、美味しい?もう少し飲む?」
そう言われた渡された二杯目の記憶ははっきりとあります。
「御機嫌だよね」
そう笑われたような気がします。ご機嫌なわけはないですよ。もうヤケクソなのですから。
ジェットコースターは嫌いじゃないです。小さい頃あの突然落ちる瞬間にひゅっと下半身が浮く感覚にぞくぞくしました。
何度も乗りたいと駄々をこねてジェットコースターが嫌いな親を困らせた記憶があります、きっとその罰なのですね、今は降りられないジェットコースターにただ乗っているようです。
突然突き落とされて、勢いよく引き上げられて。振り回されて、もう呼吸困難に陥ってしまって……。
「そもそも全部、香月さんのせいでふかから……ね」
「将生、酔ってるよね?」
「何言ってんですか?ジュースですよこれ、酔ってません」
「いやいや、酔ってるから。今日はもう止めておこう、ね?」
「やめる?」
「そう、おしまい!」
「おしまいって、やめるって何をやめるんですか?今更、やめるって言われたって……。どうやってこれから生きていけば……ひどいです。こんな体にしておいて、ひどい香月さん」
しゃくり上げながら訴えました。まるで捨てられた子猫のような気持ちになっています。
「将生、ち・が・う・だろ。誰かお前との付き合いやめるって言った?お酒はもうやめろって言ってるんだ」
「ひっ……くっ。お?お酒?どれです…か?」
「今、お前が泣きながら握りしめてるグラスだよ」
あれ?これ、おばあちゃんの梅ジュースじゃないの?道理で甘さが足りないと思いました。
「将生、そんなに俺の事が好きなの?うれしいよ、いつも気持ちを伝えてくれないから不安だったよ」
ん?いつ告白しました?え?僕が、香月さんに告白したのですか?
通常運転でも怪しいのに今日は飲酒運転です。さて終着駅はどこでしょう?
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