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Act.17 ありがとう
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「将生、結婚しようね」
だから香月さん、できません……って……ああ、もうどうでもいいです。
きっと最初にあのバンに乗ってしまった時から僕の運命は香月さんに向かって走りだしてしまっていますね。
お母さん、あなたの息子の将来は心配いりません。就職より先に永久就職先が決まりましたから。
「この先ずっと一緒にいてくれるのですか?」
「もちろん、一生だよ」
もうここまで来たら怖いものなんてありません。でも、この状況でのプロポーズって、それも求婚される立場ってどうなのでしょう。
「できれば、後でもう一回きちんとお願いします」
あ、そうじゃないですよね、僕は何を口走っているのでしょう。
「何回でも誓うよ、それよりご両親に正式に挨拶いなくちゃいけないね」
やっぱり運命だと思うしかないのですね。そうですね。
あ、カメラ回ってますね。編集でどうにでもなるのでしょうけれど、これってノンフィクションになっています。
「香月ちゃん、斎藤ちゃん、そろそろ次にいくよお」
監督の囲気を壊す台詞で、目が覚めました。そうでしたね今は撮影中。それも引退記念でした。
……ん?あれ?……んんっ???
僕が引退記念作品を作りたいってお願いしたのでしたっけ?あれ?
確か、香月さんがもう辞めていいよと?あれ何かおかしいです。今更、本当に今更ですが、もしかしてこれ……出なくても良い作品だったのではないでしょうか。
考え出すときりがないですね。
「将生?どうしたのかな、気もそぞろだよ?」
「え?あの、僕の契約書ってどうなっているのですか」
「何の話?契約書……ああ、最初のやつか。あれはあの作品一本分だよ」
「ちょっと待ってください!専属契約って……」
「うち以外のレーベルにはこの先二年は出ないという契約書に最初にサインしてたね」
出なきゃいけないじゃなくて、他に出ない契約?
まあ、出なきゃいけないなんて、脅迫めいた仕事だとは思っていましたが。
騙されたわけじゃないし、僕の確認不足だっただけのことでしょうか。気が付いたらいつも巻き込まれていましたし、今更ですしもういいです。
「将生?どうかしたの?」
「いいえ、これも運命かなって」
「もちろん、将生は俺と出会うために生まれてきたんだよ」
運命論になってきました。もしかして外れくじだらけの人生がこれで相殺されたのでしょうか。一番の当たりくじが香月さんって、世間の一般常識からは外れていますがね。
「香月さん、今週末に両親に会ってくれますか。できれば香月さんのご家族にもきちんと挨拶したいかなと思っているのですが」
「ありがとう」
なぜか香月さん泣きそうです。
「将生、俺の家族に……一緒に墓参りに行ってくれるんだね」
なぜかその表情に心が痛くなりました。寂しかったのですね香月さん。もう大丈夫です、これからは支えます。ご両親の分まで。
「香月ちゃん、そろそろ次行ってもらえないと困るんだけどなあ」
監督のあきれた声に現実に引き戻されました。
「あのっ、できればこの続きはベッドの上でお願いします!」
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