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咲良は、大きな溜め息をついてミントタブレットを取り出し、それを口に放り込んだ。煙草の代わりだという。
「けどな、残念だがこれ以上のものを処方出来ないってのも、本当のことだ」
「っ、なぜです……!」
悟は、ひゅっと息を飲んだ。どく、どく、と鼓動がやたら大きく聞こえ、眩暈がするような感覚がして。
もしかすると、どこかでこのことを感づいていたのかもしれない。けれど、それでも。嘘だと、大丈夫だよ、と言って欲しかった。
今、悟が頼れるのは咲良しかいないのだから。
「無駄なんだよ。薬が効かない? そんなことはないはずだ。他のαには大丈夫なんだから。では、なぜレナード・ローウェルだけに効かないのか? 答えは簡単なことだろう。信じがたいがな……」
「待って、それ以上……」
言わないで、聞きたくない。
耳を塞ぐようにしてしまう悟に、咲良は現実を叩きつけるようにはっきりと喋る。
「惹かれてるってことだ。これって、いわゆる運命の番ってやつじゃないのか? ま、運命の番ってのは、今や都市伝説みたいなものだが」
しかし、悟には、今、咲良の言ったことが受け入れられなかった。
運命の番と出会うと、自らが気づかない内に深い繋がりを求めるそうだ。だが、何十億という世界の人口の中で、それもたくさんの国がある中で、そんな相手が見つかるわけがないのだ。奇跡に近い確率で以前の例がないことから、この話は都市伝説とされている。
そんなことが今現在、自分に起こっている。何かの間違いだろう……と思いたいが、そう片付けてしまえば辻褄が合ってくるところが怖くてたまらない。
「はは……変な冗談、やめてください……」
声が震える。言葉を出すのがやっとであった。
「んー? 結構マジな話だぞ? となると、俺がどんな薬を処方したって効くわけがない。どこか本能的に、惹かれあってるから。どうだ?」
「……大間違いですね。だって……だって、俺の番は」
言い返してしまうのは、ただの悪あがきなのかもしれない。とにかく信じたくなかったのだ。
悟がそう言いながら項を手で押さえると、咲良は眉を寄せた。
「やめとけ。過去の話だろう」
押さえた項のところには、噛み跡がある。番がいるという印だ。
しかし、悟の場合は番が“いた”というのが正しい。
「過去? まだその証は消えてないのに……?」
「跡、薄れてきてはいるだろう。仮にそうだとしても、レナード・ローウェルのフェロモンだけ感じている時点でおかしい」
悟は奥歯を噛み締める。咲良の言っていることは、紛れもない事実だからだ。
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