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ぴく、と悟の肩が揺れる。
「……ごめん、怖かったかな」
「構いません。少し驚いただけです……だから触ってください、晴臣様」
晴臣へ顔を向けてそう言ったあと、瞳を伏せる悟。まるで美人画を見ているように、その姿は綺麗なもので。晴臣は一足先に天国にでも昇った気分になった。
再び悟の項に触れて、噛み跡をなぞる。αの血として独占感に満たされるのとともに、切なさが滲み出る。
「こんな風になるんだね……悟の肌は焼けてないから余計にくっきり見える。痛い?」
「もう痛くはありませんよ」
「俺に噛まれた時は痛かったんだね……」
悟にとっては、それだけじゃなかった。
あの時は晴臣が思う以上に、Ωとして苦しい思いをして辛かったのだろう。本能が駆け巡る中で聞いた悟の悲痛な叫びは、いつまで経っても耳に残るようなものだった。
「それでも、晴臣様が残してくださったものですから」
健気に晴臣を慕って、また無理を言わせているのではないか。
晴臣の頭にそのことが過ぎったが、悟は案外落ち着いた声をしていた。触れた肌から怯えている様子もない。
本当に適わないな。晴臣は微笑む。
「悟って俺のこと好きだよね」
「ええ、大好きですよ」
「そうだね。知ってる」
しかし、噛み跡を優しく撫でていた指先が止まった。
「……だから、辛いよ。これが君の枷となるなら」
「枷……?」
悟は晴臣のほうへ振り返る。
「番の証のほうは時期に消えていくんだと思う。でも、悟の気持ちは消えない。それは俺も嬉しいことだけど……俺、前に聞いたことあるよね、幸せかって。今、君は幸せって答えると思う。でも、それは君の本当の幸せなのかな」
「晴臣様は……今までの幸せは偽りだとおっしゃるのですか……?」
「そうじゃないけど……幸せでも、悟はまだΩだということに苦しんでる」
「あ、それは……」
「俺はそれを取り除いてあげたいよ」
もうすぐで番の契約は自動的に解除されることだろう。Ωの悟は自由となって、また愛した人と番となることが出来る。もしかすると、この広い世界の中で運命の番と結ばれるかもしれない。
しかし、悟の中で晴臣がいたことは消えないことだ。番になったことも。
悟を見てきた晴臣にはわかる。悟は晴臣がいなくなっても晴臣を愛し続ける。まるで番を強制解除されたΩのように晴臣だけを想い続け、独りで生きていくのだろう。
それは晴臣にとって心苦しいものだった。
「だから、あえて言う。ちゃんと幸せを見つけるんだよ、悟」
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