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合わない時間帯
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~Shiina side’s ~
午後からの授業が終わり、何処にも寄らずまっすぐに家に帰る。大学に入って、新しい友人も何人か出来ているし、ちゃんと上手くやれている。高校の時とは違って遊びに誘われたりもする。けど、俺は友達と遊ぶ事よりも郁と一緒に過ごす時間の方を大事にしたい。だから、誘われる度に申し訳ないけど、断っているんだ。
「ただいまー。」
「おかえり。」
玄関で靴を脱ぎ、鞄も置かず、そのままキッチンへと行くと、まだ制服姿の郁が返事を返してくれる。いってきます、おかえり。この言葉を楽しみにして大学に行っているようなものにも思う。だって、本当は通う場所が違うようになって、郁が他の人に狙われていないか心配で心配でしょうがない。俺みたいな邪魔者が消えたわけだし?何か、初めて話しかけた時とは違って空気が柔らかくなって…文化祭の時なんか…王子様の衣装で女の子の心狙い撃ちしたんだから。時々、こーっそり高校に侵入してやろうかと思うけど、郁に幻滅されたくないから我慢してる俺は結構偉いと思う。自分で言うのもなんだけど。
だって、前だったら授業中は仕方ないとして、休み時間、放課後、登下校はずっと一緒だったから。そこまで心配はしてなかった。まぁ、女の子の視線とか話しかけられているのを見て、結構ヤキモチ妬いてたけど。その度に郁は慰めてくれたわけだし。だけど、今はほとんどの時間会う事が出来ない。俺は大学だけだけど、授業が午前だけだったり、午後だけだったり、両方だったり。郁は、高校とバイト。しかもバイトは6時から10時までのバーテンダー。
「もう夕飯は作って置いたから。あと、今日も復習とか予習で遅くまで勉強するんだろ?」
「…うん、そうだけど。」
「夜食用にもおにぎり作って置いたから、腹減ったら食えよ。」
「態々ありがとう。」
テーブルの上に置かれているのは、一人分の夕飯と、一人分の夜食。人のご飯はちゃんと作ってくれるくせに自分のご飯はいつも適当な事を知っている。
「温かい場所で勉強しろよ。最近、冷えるから。」
そう言って、服を着替え終えた郁は俺のセットされた髪をグシャグシャにかき乱す。折角、セットしたのに。どうせ、もう家から出る事はないけど。
「何怒った顔してんだよ。」
「…時間かけてセットしたのに。」
「セットしない方が似合ってるだろ。今の髪型、お前に似合ってねーよ。」
「似合ってない!?」
「似合ってない。」
ショックを受ける俺に、郁はもう一度きっぱりと言い放つ。毎日、20分くらいかけて頑張っているセットが似合ってないと、一年ももう終わる…今更言われても。もっと、早くに行ってくれたらよかったのに。
「お前、女みたいな顔してんだから、セットしない方が似合ってる。」
「…もっと早くに言ってよ。」
「いや、自分で気に入ってたみたいだから放っておいたんだよ。口出しすんのも悪いかと。」
確かに、セットする度に少しはかっこよくなったんじゃないかと、自分で思ってたけど。ショックだ…。好きな人に言われるとなおさらショックだ。郁が髪の毛をセットしていると、カッコいいから。おろしている時は、自分だけが知っている姿だと、独占出来ているようで、また別の感覚で好きだけど。…俺の顔じゃ、かっこよくセットしても似合わないんだな。
「じゃ、俺はもう行くから。ちゃんと飯食っとけよ。」
「うん。気を付けていってらっしゃい。」
「いってきます。」
グレーのピーコートに、中はバイトの服で、黒のマフラーをしてバイトに出掛ける。
静まった空間に一人ぽつんと残される。…寂しい。ほんの少ししか一緒に居られない。俺も…同じ所でバイトしたいな。そうしたら、もっと一緒に居られるし、バイト中の郁の姿も見れるのになぁ。でも、俺、馬鹿だから。復習や予習をしないと授業内容についていけなくて、大学に行った意味がなくなる。そうなったら、お金の無駄遣いって郁に怒られそうだし。
でも、文系の方がまだ出来るから。郁が英語出来るし…英語が出来る仕事がカッコいいなと思ったから外国語学部に入ったわけだけども。正直、英語以外にも取らないといけなくて、中国語とフランス語をとったわけだけど…。中国語はまだわからなくもない。英語は、何故か大学生なのに高校生の郁に教えてもらったり。フランス語に関してはさっぱりだ。
「…美味しいけど、足りない。」
折角、郁が作ってくれた料理。でも…郁と一緒に食べた時の方が美味しい。郁と会う前は、良く一人で食べていたのに…一緒に食べ始めて、一人で食べる時よりも、誰かと食べた方が美味しいと知ってしまったせいか、余計に空しく感じる。
お互い、通学する時間は違うけど、少しでも一緒に居たいから俺は郁が朝ご飯を食べる時間帯に合わせて、一緒に食べる。昼ご飯は、郁の手作り弁当。夜は一人。一緒に食べれるのは、朝ごはんか、郁がバイト休みの時だけ。
「…寂しいな。」
遥は遥で、後継ぐ為に有名な大学の医学部に通っていて、勉強で忙しいせいか、あまりうちに来ることはなくなったし、連絡もあまり取り合っていない。
…寂しい。
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