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郁は俺に見える傷を作らない。それって、喜んで良い事なのかな。きっと、普通の人は痛いのが嫌いで、傷つけられるのも暴力を振られるのも嫌い。でも、俺は…郁になら傷をつけられたいと思う。何でだろ。痛いのは嫌いな筈なのに。
「いくら何でも付け過ぎなんじゃねぇの。背中痛いんだけど。」
「あ…ごめん。」
「何かわかんないけど、満足したんならそれでいいよ。」
…全然、満足してない。もっと、もっと沢山の傷を郁につけたい。でも、これ以上好きな人に、恋人に傷をつけてしまったら、世間的に異常かもしれないから、我慢しておく。
静かな部屋に、2人の息遣い。お互いの唾液が混ざり合う音。今まで、男女関係なしに何人もの人と体を交わった。どれも、体は満足しても心は満足しなかった。
「郁、郁ッ。」
「え、もうイくの?」
「違う!名前呼んでんの!」
「紛らわしー。エロい顔して言うから。」
「自分の名前じゃん。」
今更になって、気づいた。本当、紛らわしい名前。でも、遥に郁の存在を教えて貰った時、俺自身もそういう風に考えてたんだよなぁ。懐かしい。
「馬鹿。」
「お前に言われたくねぇな。」
「へへっ。」
自分の名前なのに、勘違いする郁は馬鹿だ。「笑ってんじゃねぇよ。」と言って、郁は俺の頬を引っ張った。ちょっぴり痛い。でも、その手を掴んだらあっさりと力を弱めてくれるから、頬から手が離れた。俺は、その手に頬ずりをしてみる。猫みたいに。
「郁。俺を飼って。」
「ペットみたいにって事?それ、監禁だろ。」
「うん、それでいい。」
「自由になれない、籠の中だぞ。」
「それがいい。郁のペットになりたい。」
思っていた事を言葉にして出してみた。すると、郁は眉間にしわを寄せて俺に問いかける。郁のペットになりたい。郁しか知らない世界にいたい。郁の命令を聞いて行動したい。縛られたい。
「何で?俺は嫌なんだけど。そういう趣味ないし。」
「…んー、嫌ならいいや。」
「本気だったのか?」
「まぁ…まぁ?」
「何で疑問系。ま、可愛がるだけ可愛がってやるよ。」
そう言って、ふにゃりと笑い俺の髪をグシャグシャと撫でまわす。郁と俺は、違う。俺は縛られたい。郁も縛られたい。俺の縛られたいは、精神的にも肉体的にも。郁は…何だろ。何て言ったら良いのかわからないけど、きっと俺の縛られたいとは意味が違う。郁は、こんな俺と一緒にいて良いんだろうか。俺、郁の人生めちゃくちゃにしてないかな。もし、そうだったら嫌だ。離れることも、手放す事も嫌だけど、性格を変えるぐらいは頑張れる。今までだって、変えていたんだから。きっと、大丈夫。
繋がれた手から郁の温もりを感じ取る。この郁の手と、俺の手を縫い付けてしまいたい。
空いた片方の手で、郁の頬を撫で下へと移動させていく。首、胸、お腹、性器。今度は、その逆戻り。そして、郁の頬に当てた自分の手を見れば、爪に真っ赤な液体が。郁の血。その血がついた指を舐める。口に広がるのは鉄の味。もっと、美味しい味だったらいいのに。でも、俺は郁の血も、唾液も、涙も、精子も飲める。だって、郁のだもん。
「吸血鬼にでもなんの?」
「郁の血しか飲まないよ。」
「俺、椎那に血を飲み干されて死にそう。」
そんな事しないよ。逆だったらいいけど。だって、郁がいなくなったら俺が生きる意味ないじゃん。誰にも愛されないのに、生きていてもしょうがない。豹兄には、大切な人がいる。お母さんも、お婆ちゃんも、お父さんも、お爺ちゃんもいない。今、郁が俺から離れてしまった、独りぼっちだ。
「あー、ごめん。」
「ん?」
「限界。」
「何が?」
俺の上に居た郁は、俺を抱き締めたまま横に倒れる。
「少し、寝かせて。この状況で悪いのはわかってんだけど…。」
「えっ、今寝るの!?俺のコレどうしたらいいの!?」
「わりぃ…。」
余程限界だったのか、瞼が段々と落ちていき寝息が聞こえ始める。本当に寝ちゃった…。嘘でしょ。
「郁、起きろー。せめて、後1時間だけ起きて。」
そう言って、体を揺すったり、髪の毛をグシャグシャとしてみたり、頬を引っ張ったりしてみても、目を開けない郁。…そんなに寝不足で、疲れてたのかな。よく見れば、うっすらと目の下にクマが出来てるけど。普段通りだったし。…でも、普段通りってバイトと学校と家事とで追われてて、休む時間も少ないんじゃ…。それに加えて、俺が我儘言ったりしているから1人の時間も、ゆっくりする時間もないのかも。
何で、そんなにも頑張るの?生活費も家賃も、払わなくて良いと言っているのに、払ってくれる。それはお金を出している俺じゃなくて豹兄が言った事だ。家事も、世話もしてもらっているのに、払わせるわけにはいかないと。それに、そんなにではないけれど、多少のお小遣い程度で、普通の高校生にしては多分良い額のお金を渡している。なのに、郁はバイトを辞めない。お金もまだ払い続けている。
家事だって、洗濯とか掃除とかはともかくとして、料理は弁当とか外食とかでも良いのに。郁が作るご飯は美味しいけど、体に鞭を打ってまで、俺は作って欲しいとは思わない。
「高校生がそんなに苦労してどうすんの。」
大学生になった俺なんて、全然苦労してないのに。それは郁と豹兄のお陰だけど。
「今のうちから、そんなに苦労してると老けちゃうよ。もしかしたら、過労で倒れるかもしれないんだよ。倒れるだけじゃなくて、死んじゃうかもしれないんだよ。そうなったら、俺、独りぼっちになるじゃん。もう独りぼっちはヤダよ。」
「…ちょっと黙って。」
起きたのかと思って、パッと郁を見れば瞼は閉じてる。けど、抱き締められていた腕の力がギュッと強くなって、さっきよりも密着し、郁は俺の胸に顔をあてて、また寝息をたて始めた。
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