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ひとりぐらし
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「ただいまー。。」
なんて声をかけても帰ってくるはずがなく、
自分の声だけが、静寂に包まれた部屋に残響する。
中3の夏から、ずっと1人だ。
受験を控えた重要な時期になっても
〝あの人〟は戻ってこなかった。
担任の先生が連絡をしてくれていたみたいだから、
俺は無事受験を終えることができたものの、
受験期に1日すら帰ってこないのが、変に思われなかったことが不思議でならない。
学校は、それほど生徒に興味がないのかもしれない。
1人きりの夕食は幼い頃から慣れたもんだが、結構寂しいものだ。
みんなで給食を食べたり、弁当を食べたりした時は尚更。
今日は要から呼び出されたので、自炊はしない。
スーパーで半額で買ったカツ丼で済ますことにした。
「いただきます。」
昔
遠い昔、もう顔もうろ覚えだけれど、
大切な人が、言っていた。
確かあれは、俺が〝いただきます〟を言わなかった日。
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「こら七海。いただきます言ってないでしょ?
いただきますは大切なのよ。」
綺麗で、暖かい高い声。
「なんで?」
あどけない俺の声。
「いただきます、はね、命をいただきます。
ってことなのよ。
私たちのために、命をくれた食べ物たちをたたえて、あとは、この食べ物を採ったり育てたりしてくれた人達に、
お礼をしてるのよ。
今日も私たちを生かしてくれて、
美味しいご飯をありがとうって。」
こんなに凛と澄んでたんだっけ。
「へー。じゃあ僕、ちゃんとたべものさんたちに
おれいする!!」
「七海は、偉いな。」
太くて、優しい低い声
自慢げに俺は言い放つ。
「だってパパとママの子だからね!!」
遠くに、父と母の笑い声が聞こえる。
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多分、これが最後に両親から教えられたこと。
もう、写真を見ないと、父の顔も母の顔も思い出せない。
「ごちそうさまでした。」
律儀に手を合わせて席を立つ。
プラスチックの容器をすすぎ、ゴミ箱に投げ込み、
そして風呂場に向かった。
────シャワーの暖かさが、しみる。
今日は、随分懐かしいことを思い出した。
輝と、弁当を食べたからだろうか。
懐かしい思い出にふとよぎった。
ずっと思い出さないようにしていたのに。
〝あの人〟 は、今どこで何をしているのだろう…
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