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1【Miyabi】
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10歳の時に、母を亡くした。事故だった。
突然のことに、涙が出なかった。事故で死んだという報告を受けたときも、お通夜も、お葬式でも。悲しくなかったわけではない。母はまだまだ若くて、綺麗で、なによりとても優しかった。俺はもう10歳だよ、もう子供じゃないよと言っても、毎日一度は抱き締めて頬にキスしてきた。母に抱き締められると、いつも水仙の花のようにいい香りがした。
俺が泣かなかったのは、ただ、3つ下の弟があまりに泣くものだから、なんとなく泣けなかったのだ。当時弟は7歳。小学校に入学したばかりで、まだまだ幼かったし、俺以上に母親っ子だった。
泣きじゃくる彼を抱きしめて、絶対に守っていこうと思った。優しかった母のように、母が俺ら兄弟にいつもしてくれていたように、幼くして母親を失ったとしても、彼が愛に飢えることがないように。
俺は、弟が生まれたときから、彼が大好きだった。赤ちゃんのうちは、母のまねをして一生懸命世話もしたし、ちょっと大きくなってからは一緒に遊んだし。小さい頃の弟はいたずらっ子でわがままで、だけども愛嬌がたっぷりで可愛くて、俺はいつも弟の喜ぶようにしてやった。俺は昔から弟のような可愛いげがなかったから、その純真さが羨ましくて、愛しかった。
そんな、愛しくて、大好きな弟への情は、いったいいつから歪んでしまったのだろう......
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