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「無理」
スッと立ち上がった雅は、それだけ言うとさっさと服を着替えてしまう。
「えっ、うそ、普通イケる流れでしょ今の」
「言ってなかったっけ......今夜大阪でショーやるから、リハもあるから昼前には出るって」
「聞いてねぇ......」
「そう?ごめんごめん。で、しばらく帰らないから。向こうでちょっと仕事してくる」
「うそぉぉ......」
あの甘い空気は幻だったのかと思うほど、淡々と旅支度を進めている。
「ねぇ、彰吾のシャツ貸して」
「シャツ......?いいけど、なんで」
すると雅は、俺が昨日着て脱ぎ散らかしていたシャツを丁寧に畳んでいる。
「旅先に彼シャツ持ってってすることなんて、一つしかないでしょ......?」
俺のシャツを鼻に当てて、すんと息を吸い込んでから、鞄に詰めた。
「彰吾の匂いって好き。ひだまりの匂いがして、安心する」
ベッドを抜け出して後ろからぎゅっと抱きしめると、嬉しそうに笑って振り向いた。
「いつ帰ってくんの」
「来週の水曜」
「ふぅん......」
「彰吾、寂しい?」
「別に」
「そう?じゃあ、寂しいのは俺だけか」
そう言って拗ねたような顔をする。少し前までは考えられない姿だった。
「帰ってきたら、いっぱい抱いてあげる」
「ほんと?......じゃあ、誰ともエッチしないで我慢する」
いつの間にか向きを変えて、俺の体にぎゅうと抱きついて、俺の胸元に頭をすり寄せていた。
「彰吾......」
温かい気持ちが身体中に充満する。
「寂しくなったら、電話しておいで」
「やだ。声聞いたら、シたくなるでしょ」
「雅ちゃん可愛すぎ......」
堪らなく押し倒したい気持ちをぐっと堪えていると、チラッと時計を見た雅が立ち上がる。
「じゃ、そろそろ行くから」
それだけ言うと、振り向きもせずに荷物を持って玄関へ向かう。あんなに甘い空気を醸していたのに、一ミリも名残惜しくなどなさそうに靴を履いてドアノブに手をかける。
「雅ちゃん、いってきますのチューは?」
つんと袖を引っ張って引き留めれば、けして冷たくなく微笑んだ雅が振り向いて、触れるだけのキスをしてくれた。
「浮気したらゆるさないから」
「しません。いってらっしゃい」
「いってきまぁす」
振った手で最後に俺の頬を一撫でしていった。そして、瞳が名残惜しそうに俺を見つめていたのは、きっと見間違いではない。
「可愛すぎんだろ......」
これまでとのギャップが激しすぎて、心臓が持たない。あんな風に笑顔にしてみたかった。その夢が叶って、俺は思わずにやにやと笑ってしまった。
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