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いちご味のパン
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「えっと、苺は知ってるよな?」
いちご。故郷…って言ってもいいのかな。
俺の生まれた場所で余るからってたまに
貰ったりしてたっけ。ちょっと酸っぱいけれど、
よく噛んで食べると甘くて
ほっぺが落ちそうになる果物。
「いちご、好きなの」
「おっ、丁度良かったな。ジャムは簡単に
言うと苺を柔らかくしてゼリーっぽく
したものだよ。こうやってパンとかに付けるんだ」
「そう、なんだ」
えいとさんにジャムの事を教えてもらうと、
ますます目の前の赤くきらきらしたパンを
食べたくなっちゃって目が離せなくなる。
するとえいとさんがふふっと笑った。
「よし、じゃー食べようか。いただきます」
「いただき…ます」
えいとさんに続いて言う。
そして俺はパンを両手で持ちあげ、ジャムを
目掛けて小さくかぶりついた。
なにこれ…すごく美味しい。まるで…
「いちごみたい…」
「苺味だからな…って今笑った?」
「…?」
えいとさんが急にテーブルに身を
乗り出したから、俺は訳がわからずに
きょとん、とし首を傾げてしまう。
…笑った?
「俺が…です、か…?」
「そうだよ、翠が笑ったとこ初めて見た
…すごい可愛いな」
あまりに真剣な眼差しで言ってくるので
何も言葉が浮かび上がらない。
その代わりに、俺の頬がお風呂に入った時みたいに
ぽかぽかになるのを感じた。
それにしても俺、笑ったんだ。
自分では全く実感がなかったんだけれど、
えいとさんが言うに本当らしい。
笑うのって、どんなに久しぶりだっただろう。
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