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今度の上司は、良くも悪くも普通の人だった。
一仕事片付いて、報告書を上司の元へ持って行くと、タイピングの手を止める事なく
「ご苦労さん。報告書、後で見るからそこ置いといて」
そう、声をかけられただけだった。
あまりの呆気なさに思わず硬直してしまうと、不審に思ったのか、上司が一瞬手を止めて横目に睨みつけてきた。
「他に何か?」
「あっ、いいえ。お疲れ様でした」
不機嫌そうな上司に、慌てて頭を下げると足早に事務所を後にした。
木下さんと対応が全く違っていて、そのギャップにショックを受けたのだ。
木下さんは、報告書を持って行くと、急ぎの仕事をしていない時には必ずその場で報告書に目を通して、内容把握の為の質問や記入ミスもその都度指摘してくれていた。
そして、報告書をその場で見れなかった場合でも、俺が立ち去る前には必ず笑顔で労いの言葉をくれた。
木下さんの笑顔を不意に思い出して切なくなって苦しくなった。
その一ヶ月後、伝達ミスが原因での発注の手違いを上司から指摘された。
上司の嫌味な物言いに思わずカチンときた。
自分自身、発注する前に念の為もう一度確認すれば良かったのだろうが、それにしても、薄ら笑いを浮かべて指摘するその姿は、俺をバカにしているようにしか見えなかった。
そんな時、思い出すのは木下さんの事で。
木下さんは、こうじゃなかった。木下さんは……。
何かにつけて今の上司と木下さんを比べるのは間違っている。
人間なのだから、違って当たり前だし、今の上司に対しても失礼だって、分かっているのに。
何もかもが木下さんに結びついてしまって、木下さんを度々思い出して、その都度、胸が痛くなる。
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