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それからしばらくして、木下さんの噂を聞いた。
それは、本部長の娘さんとの縁談が持ち上がっているという話。
噂話を耳にした瞬間、胸の奥がズンッと、重苦しくなった。
息が、心臓が止まるかと思った。
独身のイケメンエリートな彼のこの手の情報は、同じ社内にいる限り、否が応でも必ず耳に入ってくる。
あんなにイイ男を周囲が放っておくはずがないのだ。
いずれは、そんな話も耳に入って来るだろう事は予想していた。
けれど、木下さんが入社してから今まで、彼の浮いた話を一つも聞いた事がなかったから。
俺は心のどこかで
『ありえない、ある筈がない。彼は俺の事が好きなんだ』
と儚い期待を抱いていたのだと思う。
儚いと言えば聞こえは良いが、彼の好意を自ら拒んでおきながら、未だに未練がましくしがみついて……なんて、自分勝手でみっともない。
自分の醜い感情に直面するのが嫌で堪らない。
こんなに辛い思いをするのなら、縁談の話も、木下さんの事も、こんな想いも、何もかも知りたくなかった。
木下さんが誰かのモノになる、その噂を耳にするのが辛い。
せめて、木下さんを知る前だったら、好きになる前だったら。
そんな事、重々承知のはずだったのに、今更傷ついている。
傷つく資格なんて、ありはしないのに。
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