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「ご無沙汰しておりました、木下です。既に部外者の自分を、本日はこのような楽しい席に呼んでくださってありがとうございます。久しぶりに、皆さんの元気そうなお姿を拝見出来て嬉しいです」
上司のありがたいお話の後、幹事に促されて木下さんも一言挨拶をする。
その背筋のピンと伸びた姿は凛としていて、横顔は少しシャープになったのか、以前よりも精悍な顔立ちをしている。
よく通るけれど、優しく響く彼の声に、胸がうち震えた。
皆の注目が木下さんに集まる今なら、誰に見られる事もないだろう、と気を弛めてしまっていたから。
気付けば、涙がスッーと流れていた。
瞬間的に欠伸をする真似をして口元を手で塞ぐと、周囲をキョロキョロと見渡した。
……良かった、気付かれてない。
あーもう、やばかった。
迂闊だった。
焦りの為か、久しぶりに木下さんを見たせいなのか物凄い動悸に見舞われた。
落ち着かない胸に手を当てて溜め息をつくと、いつの間にか木下さんの挨拶が終わっていて、大きな拍手が送られていた。
それも、上司の時のような御座なりなものではなく、惜しみ無い精一杯の拍手。
皆の反応でも、木下さんがいかに慕われていたのかがよく分かる。
幹事が乾杯の音頭をした後、時間制限ありの飲み放題プランの為か、皆は最初からすごい早さで次々にグラスを空けていく。
目の前に座る後輩も、隣に座る同僚も然りで、ただ圧倒されるばかりだ。
俺は元々酒に強い方ではないから、麦焼酎の水割りをちびちびと口にしながら、遠くの席に座る木下さんをコッソリ盗み見て、最後になるかもしれない彼の姿を脳裏に焼き付けようとしていた。
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