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「……はい」
呆けたまま、コクリと頷いて気の抜けた返事をすると、木下さんは優しく微笑んだ。
「立てますか?」
「あっ、大丈…」
自力で立てないほど酔ってはいなかったから、平気だと言おうとしたのだが、木下さんは俺の返事を聞く前に俺の腕を取って、軽々と立ち上がらせた。
「出ましょうか」
優しく声をかけられて、腕を掴まれたまま部屋の外へ連行される。
(これじゃまるで、介護だし。スゲー恥ずい。元上司に介抱させるとか何様だよ、俺。自覚ないだけで、かなり酔っぱらってんのか?)
酒のせいだけではない、顔の火照りで額に汗が滲む。
羞恥心と緊張感いっぱいの中、連れ出された先は非常階段の踊り場だった。
建物の中とはいえ、暖房の効いていないこの場所はヒンヤリと冷たくて、火照った身体と頬には気持ち良くて、緊張で強張った肩から力が抜けた。
「お久しぶりです」
非常口のドアがパタンと音を立てて閉まった後、聞こえてきた彼の声に顔を上げると、穏やかな笑顔の木下さんが俺を見ていた。
「あっ、えと、お久しぶりです」
改めて挨拶をされて、慌てて頭を下げる。
「えっ?そんな畏まらないでくださいよ、頭を上げてください」
何故か慌てた様子の木下さんに肩を掴まれて、身体を起こされる。
「もう、上司と部下ではないんですから」
優しく微笑む木下さんのその言葉が、胸に刺さった。
『お前とは、何の関係もない』
そう、言われた気がしたのだ。
木下さんにそんなつもりは微塵もないのかもしれない。
むしろ、無礼講だと言ってくれているだけかもしれない。
だけど、今の俺に、前向きに考えられる要素は一つもなかった。
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