アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
13
-
シュン王子は離宮での無期限謹慎になり、王太后は国家反逆罪に問われ、生涯幽閉されることに決まった。
王太后の味方をした、実行犯の男は処刑。王太后に協力した古城の持ち主だった貴族は、領土を没収されて没落した。
南の隣国の男については、王城の地下牢に収監し、これから恐ろしい尋問が待っている。
あの古城のホコリっぽい地下牢とは違い、地と汚物の臭いにまみれた現役の地下牢だ。
「さぞ快適だろうな」
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた王に、ルーンは何も言えなかった。
一国の王妃を誘拐し、侮辱し、自国の王に捧げ渡そうとしたばかりか、その前に自分も味見をしようとしたのだから、生半可な刑にはならない。王の怒りも深そうだった。
またルーンの方も、それについては罪の軽減など願ってもいない。
ルーンに触れていいのは、王だけだ。
ぞっとさせられた分以上に、ぞっとすればいいと思った。
およそ2週間ぶりに王城に戻ったルーンは、いつもの広い浴槽に身を沈め、さっそく旅の疲れを癒した。
手首にはロープの痕がまだ少し残っていたが、じきにこれも消えるだろう。
それより、旅に出る前に肌に散らしていた、王の唇の痕がすべて消えていて、そちらの方が少し寂しかった。
旅の途中では、高級宿や招かれた城で風呂に入るのが基本だったが、山小屋にはそれもない。
あの大雨の夜以降、ルーンが風呂に入ったのは、軍服のまま水を掛けられた時と、救出された直後だけだ。
事後処理や城内捜索のため、一晩をあの古城で過ごし、3日ぶりの食事と風呂にあり付けた。
食事に手を出さなかったのだと訊くと、王はさすがに絶句していたが、毒を警戒したのだから仕方ない。それについて怒られることもなかった。
王はルーンを抱き締め、「痩せたんじゃないか?」などと言っていたが、数日絶食したくらいで倒れる程ヤワではない。
さすがに少し貧血気味にはなったものの、風呂に入って一晩寝れば、翌朝はスッキリ起きられた。
古城で助け出された後は、ずっと王の側にいた。食べる時も寝る時も、馬でも一緒だ。
過保護過ぎる気がしたし、自分に落ち度があったとも思えなかったが、「心配した」と何度も言われれば、申し訳なくて拒めない。
それに実際、大いに心配をかけたようだ。敵襲と誘拐の報告を受けた後は、さすがの王も顔色を変え、すぐにでも飛び出しそうな勢いだったと聞いた。
その後、「出発にはまずご準備が」と王を諌めた大臣や将軍は、不機嫌な王に睨まれて、寿命の縮む思いをしたらしい。
「王妃様、よくぞご無事で」
王城に帰還した途端、目の前で大臣たちにひざまずかれ、二度と王の元を離れないよう懇願されて驚いた。
「無事のご帰還、感謝申し上げます」
と、侍従たちには拝まれた。
感謝は神にするものではないかと思ったが、神では王を止められない。ルーンの無事に対し、ルーン自身に感謝するというのだから、よほど恐ろしいモノを見たのだろう。
使用人に当たり散らすような愚王ではないが、たとえ黙って座っていても、威圧を放つことはできる。
襲撃とルーンの誘拐と、行方不明。すぐに駆けつけられないもどかしさと、焦り。今はそれが怒りに変わり、主犯たちに苛烈な刑を与える結果となっている。
「心配かけて、ごめん」
素直に謝ると、侍従も侍女も一斉に慌てて、「とんでもございません」と頭を下げた。
風呂付きの召使いに全身を磨き上げて貰い、旅の垢をすべて落として、ゆったりと湯にたゆたう。
古城にあった、すすけた狭い風呂よりも、やはりここの方が落ち着く。
王の気配に満ちている。
事務処理に追われる王とは、帰還後は別行動だったけれど、夕飯は一緒に食べられそうだ。浴室の向こうがざわめいて、王が現れたことに気が付いた。
「ルーン!」
侍従に脱衣を任せながら、王が浴室を覗き込む。
「待ってろ、一緒に入りたい」
ささやかな彼の願いを、断る理由はない。間もなく王がたくましい体を晒し、浴槽に入って来た。
腕を伸ばされ、誘われて、素直に愛する王に寄り添う。甘えて抱き付くと、洗ったばかりの銀の髪を撫でられた。
促されるまま顔を上げ、寄せられる唇を享受する。落ち着いた気分での久々のキスは、とても深く、甘かった。
王がレンの元にたどりつけたのは、「不審な馬車の一団を見た」との報告がきっかけらしい。
不審だったのは、何よりもあのスピードだろう。
馬車という乗り物は、そもそも速さを求めて走らせるものではない。道が平らに踏みならされた大通りならともかく、あのような山道をガタゴト走らせるのはおかしいのだ。
その報告を聞き付け、馬車の向かった方角を探す途中で、例の耳飾りに気付いたという。
「わざと落としたんだろうってのは、すぐ分かったからな」
王はそう言って、ルーンの空っぽになった耳たぶを唇で食んだ。その耳たぶには、出発の直前、王により空けられた穴が小さく残っている。
穴を空けて着ける耳飾りが、破損もせずに道端に落ちている訳を、想像するのはたやすいだろう。
その道をまっすぐ走らせると、更にもう1つ耳飾りが落ちていて、それには琥珀の石がなかった。
「お前に何かあったってメッセージじゃないかと、無茶苦茶焦ったぞ」
ヒザの上に乗せられ、ぎゅっと抱きしめられて、「ごめん」と謝る。
けれどルーンの方にも、琥珀だけがなかった理由は分からなかった。
「シュン君に渡した時は、ちゃんとあったと思ったけど」
首をかしげても、もう耳に重さは感じない。
やたらと存在感のあった耳飾りだったから、護り石の片方が欠ければ、違和感を感じただろうと思う。
では、落とした後に、片方だけ取られたのだろうか?
「いや、案外、誰かが大事に持ってるのかもな」
あいつめ……と小さな舌打ちを1つして、王は再びルーンに深いキスをした。
旅の間、王にそっくりの義弟に王の面影を追っていたが、今こうして間近で見ると、愛おしさが格段に違う。
浴槽から強引に抱き上げられ、寝室へと運ばれながら、ルーンは安らぎと幸せに目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
34 / 47