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全ての始まり〜紗智side〜
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side:紗智
──僕はただ、守りたかった。
あの人と、あの人の大切な人を。
山奥にある全寮制の男子校。外部の人間なんてほとんど入ってこないこの学園に転校生がきたのは、一ヶ月前のことだった。
彼、黒田太陽(クロダタイヨウ)は、ボサボサの髪に大きな瓶底眼鏡といういかにもオタクな外見に似合わず、明るく元気な少年だった。
彼の明るい性格はこの閉鎖的な学園で生きてきた生徒達にとっては物珍しく、特に一般生徒から高嶺の花として距離を置かれていた親衛隊持ちの生徒達は、普通に話しかけてくれる彼に惹かれていった。
当然、それを良く思わない親衛隊員達は毎日のように彼に対して"制裁"と称した酷いいじめをするようになった。
僕、篠宮紗智(シノミヤサチ)は高等部2ーAに在籍していて、生徒会会長の伊集院龍樹(イジュウインタツキ)様の親衛隊隊長をしている。
親衛隊総隊長も兼任しているため、会長親衛隊だけでなく高等部の親衛隊員が起こした問題は、全て僕の責任になってしまう。
だから黒田太陽が転校してきてからというもの、僕は彼に対する制裁を止めるため、毎日のように学園内を走り回るはめになった。
親衛隊会議で制裁の禁止を訴えても過激派の行動は止まらず、それどころか最近は制裁に反対する僕の代わりに制裁の首謀者を総隊長にしようという動きも起こっていた。
このまま制裁が続けば、親衛隊は解散させられてしまうかもしれない。
それに、黒田太陽が傷ついたら、きっと龍樹様が悲しむから。
龍樹様は中等部から外部入学した初日に、強姦されそうになっていた僕を助けてくれた恩人だ。
その時の彼の笑顔が忘れられず、すぐに僕は龍樹様の親衛隊に入った。
彼が高等部の生徒会長になってから親衛隊の規模が大きくなり、マナーの悪い親衛隊員が増えたせいで最近は龍樹様に疎まれているけど、それでも龍樹様は、僕にとって何よりも大切な人だから。
龍樹様の悲しむ顔は見たくない。
──だから僕は絶対に黒田太陽を守る。
口で言って聞かないなら、行動するしかない。
それからというもの、僕は朝早く学校に行って荒らされた靴箱やロッカーを片づけたり、黒田太陽に対する暴行の現場に踏み込んだりと制裁を止めるために奮闘し続けた。
親衛隊員や彼らに雇われた生徒達から暴行を受けたり、時には強姦されそうになったこともあるけど、それでも、制裁を許すわけにはいかなかった。
龍樹様や役員様達には僕が制裁を主導していると誤解されていたけど、黒田太陽──太陽くんとは友達になれた。
彼は、僕が庇う度に申し訳ないと言っていたけれど、親衛隊の起こした問題は僕の責任だから、と守り続けるうちに、いつのまにか仲良くなっていた。
太陽くんは、確かにこの学園の生徒達とは少し違う考え方をしているけど、優しくて思いやりのある、いい子だった。
それから僕と太陽くんがいつも一緒にいるようになり、制裁はかなり減った。
だから僕は、油断していたんだ。
ある朝、太陽くんの側を離れ、担任に頼まれた仕事をしていると、階段の方から言い争う声が聞こえてきた。
嫌な予感がして、あわてて声のする方へ向かうと、太陽くんが数人の親衛隊員に囲まれていた。
彼らは太陽くんに対して暴言を吐いていたが、ついに一人が太陽くんに殴りかかった。
太陽くんが喧嘩が強いってことは知っていた。
前に一度助けてもらったことがあるから。
だけど僕はとっさに、振り上げられた拳の前に飛び込んだ。
そして、左頬に痛みを感じたその瞬間、世界が反転した。
「紗智っ!!」
太陽くんが、僕に向かって必死に手を伸ばしている。
ああ、僕は階段から落ちたのか、と認識した直後、頭に衝撃を感じた。
薄れていく意識の中で、誰かの悲鳴と近づいてくる足音、そして太陽くんの名を呼ぶ龍樹様の声が聞こえた──。
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