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記憶〜紗智side〜
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side:紗智
しばらく無言の時間が続いた。
静けさを破るように、太陽くんが昼食にしよう、と言った。
僕もちょうどお腹が空いてきたところだったので、太陽くんの提案に賛成した。
昼食は、矢吹くんの手作りのお弁当だった。
僕と同じクラスで太陽くんの同室者だという矢吹くんの作ったお弁当は、彼のいかにも不良、という容姿からは想像もつかないほど綺麗に彩られていた。
まるで女子のお弁当みたいだ、と変なところで感心するが、それ以上に気になったことがあった。
「ねえ、矢吹くん。どうして僕のお弁当だけ、こんなに豪華なの?」
矢吹くん自身も含めた他の3人は普通の二段弁当なのに対して、僕のお弁当はとても手作りとは思えない、まるで何かのお祝いのような豪華な料理がぎっしりと詰まっている。
疑問を素直に口にすると、矢吹くんは何かを言い淀んだような、困ったような顔をして。
しばらく無言で僕の目をじっと見つめて、意を決したように口を開いた。
「篠宮は覚えてないと思うけどさ、俺、お前にかなり酷いことしちまったから。まあ、その、なんて言うか……お詫びみたいなもんだよ」
ぼそぼそと、はっきりしない口調で告げられた言葉の意味は、やっぱりよく分からなかった。
僕は矢吹くんのことも、彼が言った酷いこと、というのも、全く覚えていない。
自分でも不思議に思うほど、記憶が抜け落ちているのだ。
冷龍学園に入学してからのことといえば、太陽くんのことくらいしか覚えていない。
それも、何故か守ってあげなきゃ、と強く思うのに、どうして僕が太陽くんを守らなきゃいけなかったのか、という理由はさっぱり思い出せない。
医師には、ストレスが原因だと言われたが、そのストレス、というのも少しも思い出せない。
彼らのことを覚えていなかった、ってことは、矢吹くんや伊集院先輩が関わっているのは確かなんだろうけど。
そういえば、矢吹くんを見たときは、伊集院先輩のときのような胸の痛みは感じなかったな、とふと思った。
あの胸の痛みは、いったい何だったんだろう。
僕が記憶を失ったことと関係しているんだろうか。
小さな疑問を胸に、僕はやたらと豪華なお弁当に手を着けた。
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