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驚きの1
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兵学校時代の同期2人が王都から視察に来たのは、オレが妻と王都から戻って1ヶ月ほど過ぎた頃だった。
先日の帰省で王都の騎士団本部に挨拶に行った時には、顔を見なかった2人だ。
視察だという名目で騎士団の詰襟の服を着て来てはいるが、特に命令書もないし、王都からの申し送りもない。観光しに来てるのは見え見えだった。
制服を着て来てるのも、身分証明の意味だけじゃ多分ないんだろう。身分証明だけなら、ここに来る直前に着替えればいいだけで、道中着てくる必要はない。
ただ王立騎士団は、兵学校を出ても一握りの人間しか入れない、選りすぐりのエリート集団。制服着てるだけでモテるというのは、昔よく聞いた話だった。
オレには妻がいるし、女に群がられても迷惑なだけだが、きゃあきゃあ言われて喜んでる連中は多い。
確かこの2人もそんな感じで……つまりは、モテ目的の制服なんだろうなと思った。
そもそも、ここには有給を利用して来てるんだとか。
「もっと早くに来たかったんだけど、シフト調整が難しくてな」
「だな」
そんなことを言いながら、土産だと言って王都の菓子折りを差し出す2人。
「アルトがどんなとこで働いてんのか気になって」
にこやかに言い切る2人に、こっちでの仲間が「へぇ」とざわめく。
「アルトにもちゃんと友人がいたんだな」
感心したように呟く誰かに、「コイツ無愛想ですよね」って同期が笑う。
「休日に遊びにも行かないで、素振りばっかしてたよな」
「ああ、そりゃ、今もだ」
こっちでの同僚がそう言って、場にいた全員がドッと笑う。
言われてみればその通りで反論のしようもないが、オレの場合は、妻がそれでいいというのだからいいんだろう。
それに最近は、素振りだって一緒にする。
互いに剣が好きで、練習も好きなんだから、一緒にやれて楽しめるなら問題ない。何より、それでオレも妻もリラックスできるんだから、それが何よりだと思ってる。
午前の巡回にも、同期2人は付いて来た。
徒歩で領都の街を巡回し、変わったことはないか、不審な動きはないか、自分たちの目で確認する。
この辺は王都の巡回とそう変わらない。
変わるのは街の人口の差と、住民たちの友好度だろうか。
「ああ騎士様、お疲れ様でございます」
巡回中、行き合う住民ににこやかに挨拶されるたび、この街を護ろうと思えて来るのは自然なことだ。
「変わったことはないか?」
「ええ、今のところ特に」
住民に「そうか」とうなずいて、また徒歩での巡回を進める。
甲高い声で叫びながら、前を遮ったり周りを囲んで来たりするような女は1人もいない。
目が合うたび「きゃあ」とさざめく若い娘も皆無ではないが、王都ほどうるさくもウザくもなかった。
途中、同じく巡回中の自警団の連中とすれ違った。
「異常ありません」
軽く手を挙げながらの報告に、同じく手を挙げ返し、「こっちもだ」と報告する。
自警団は地元の有志の若者たちで構成されていて、オレら騎士団だけじゃ手の回らない、巡回業務なんかを手伝ってくれてる。
それぞれ腕は立つものの、以前は連携なんかがバラバラだったが、最近は義父が教官に就くことで、かなり改善されてるようだ。
妻の幼馴染なども多くて、その関係で、最近は以前より少し親しい。
恐らく、妻との3本勝負がきっかけで……だとすると、これも全部妻のお陰かも知れなかった。
一方の同期は、その自警団が珍しいようだ。
「アイツら何?」
2人の質問に「自警団だ」と答え、その役割をおおまかに説明する。
「うちは慢性的な人手不足だからな。ああいう有志の手助けがないと、最低限の巡回もままならない。お前らが来てくれるなら、歓迎するぞ」
ニッと笑いながら勧誘すると、「断る」と2人同時に首を振られた。
「こんな娯楽のなさそうなとこじゃ、1週間も暮らせねぇ」
まあ、そう言うだろうなと思いつつ、ニヤリと笑う。
「いくらでも腕試しの機会があるのに、娯楽がないなんてことはない」
そう言うと、「お前はな」って口を揃えて言われた。
「オレらはお前みたいな剣術バカじゃねぇよ」
「お前にかなうヤツなんて、こっちにもいないんじゃないか?」
2人の言葉に、ふっと笑えた。
「そうでもないぞ」
オレの言葉に、2人が驚いたように目を剥いて絶句したけど、事実なんだから仕方ない。
頭に浮かぶのは、妻の流れるように自然な剣戟。
オレだって心底驚いたんだから、2人が驚いてもおかしいとは思わなかった。
巡回の最後に、妻の働く領民学校に立ち寄った。
妻の実家・ハルバード家が経営し、広く領民の子供らを集めて、読み書き計算から剣の振り方、矢のつがえ方まで教えてくれる学校だ。
ハルバード家の地元であるこの領では、オレは妻の関係者として扱われる。
「ハルバード先生のとこの騎士様」
と、そう呼ばれるのも、最近ようやく慣れてきた。
別に悪い気はしないし、いいのだが、できればいつかは、オレ自身の名で呼ばれたいとは思ってる。
そして妻も、「騎士様のとこの先生」って呼ばれればいい。
今は「若先生」と呼ばれる妻の職場に向かいながら、オレはふと口元を緩めた。
そんなオレを見て、また同期2人が目を剥いていたが――多分、「ハルバード先生のとこの騎士様」ってのが珍しくておかしいのだろう。
オレ自身、最初は「何だそれは」と思ったんだから。2人にそう思われても、不思議なことは何もなかった。
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