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驚きの2
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学校の校庭に近付くと、遠目からも我々の姿が見えたのだろう。
「騎士様だー!」
子供たちがわあっと歓声を上げて、校門のとこまで駆け寄って来た。
「今日は騎士様、3人だ!」
「若先生~!」
あっという間に囲まれて、甲高い声できゃあきゃあと騒がれる。ただ、王都の女どもに囲まれるのとは違って、悪くない。
どっちも喧しいには違いないのに、そう不快に感じないのは、子供らの目に純粋な尊敬が見えるからだ。
ふっ、と笑って、子供らの頭を適当に撫でる。
「どうだ、変わったことはないか?」
そう訊くと、子供らは口々に「ないよ」「なーい」と返事した。
ふと横を見ると、同期2人がまたしても、驚きに目を見開いてる。
「どうした?」
「い、いや……」
オレの問いに、曖昧に首を振って言葉を濁す同期。
変な奴らだなと思ったけど、考えて見れば、こんな田舎にこんな規模の学校があるのも珍しい。
オレだって、妻の一族が学校経営者だと結婚前から知ってたはいたが、初めて実際にこの学校を見た時は、立派で感心したものだった。
読み書きや計算、礼儀作法だけじゃなく、剣や弓の使い方まで教えてると知って、更に驚かされたのは、いい思い出だ。
ざっと見たところ、剣の練習してるようではなかったけど、もしコイツらがそれを見れば、もっと驚いた顔するに違いないと思った。
周りの子供らの頭をひとしきり撫で終えた頃、生徒の1人に連れられて、妻が校門までやって来た。
「あっ、若先生だ!」
「先生~、騎士様来たよ~!」
オレらを囲んでた子供らが、今度は妻を取り囲んできゃあきゃあ騒ぐ。妻は子供らに優しくうなずき、それからオレに目を向けた。
「旦那様」
目が合った瞬間、妻の顔がぱぁっと華やいだように見えたのは、決してうぬぼれだけじゃないだろう。
結婚以来あまり顧みてやれなくて、よき夫じゃなかったかも知れないが、一緒に剣の練習をするようになってから、こんな笑みをよく目にするようになってきた。
控え目で無口で料理が美味くて、色白で肌がキレイで従順で……それに決して不満があった訳じゃないが、最近はますます魅力的になったと思う。
どこに出しても、誰に紹介しても、恥ずかしくない自慢の妻だ。
「お仕事、お疲れ様です」
ほんのりと白い頬を染め、妻がオレの側にやって来る。
「今日は、何か……?」
そう言いながら、妻の大きな目はオレの横に立つ同僚たちへと向けられた。問うような目線にふっと頬を緩めつつ、妻の細腰に手を添える。
紹介しようと同期達を振り向くと、2人はバカみたいに目と口を見開いて、オレらの方を見詰めていた。
さっきから一体何なんだ?
変な奴らだなと思いつつ、改めて口を開く。
「紹介しよう。王都から視察に来た、オレの兵学校時代の同期。そしてこれが、妻のレイだ」
互いに互いを紹介すると、妻は「ふああ」と声を上げ、同期達にぺこりと頭を下げた。
「レイ=ハルバードと申します。いつもお世話になっております」
「ああ、いや……」
「どうも……」
妻の自己紹介に、同期2人はひどくうろたえて、困ったように目を泳がせてる。辛うじて簡単に名乗りは上げていたものの、不自然さが際立った。
無愛想だ何だと言われるオレと違い、女にでも誰にでも馴れ馴れしく話すヤツらだったハズなのに。一体何なんだ?
「変だぞ、お前ら」
思わずそう言うと、口を揃えて「お前がな」と言われた。
「は?」
意味が分かんなくて眉をしかめると、妻が腕の中でふふっと笑うのが聞こえた。
「旦那様、楽しそう」
「は?」と妻を見下ろすと、妻は白い顔を無防備に緩めて、オレと同期らとに目を向けた。
「同期って、いいですね……」
ぼそりと呟かれた言葉に、じわっと胸が熱くなる。
家柄も学力も、そして剣の腕も、十分な資格を持っていた妻が、祖父の意向で兵学校行きを許されなかったというのは、ほんの少し前に知ったことだ。
先日王都に滞在した時、兵学校を見学に行ったが、門の中に入れただけで随分感動してたものだった。
その妻からすれば、兵学校の同期という存在は、確かに眩しく見えるかも知れない。
「あ、そうだ。旦那様、少しお待ちください」
妻は何やら思い付いたように手を打って、ぱたぱたと校舎の中に駆けて行く。
「確かにオレは、恵まれてるな……」
妻の後姿を見送りながらぽつりと言うと、同期2人の口から、それぞれ何とも言えないようなため息が漏れた。
間もなく、妻が何やら包みを抱えて、再びぱたぱたと戻ってきた。
「あの、これ、すみませんが父に」
そう言って差し出されて、何かと思ったら、いつもの義父宛ての弁当らしい。
「何だ、今日は持って来ないのか?」
苦笑しながら訊くと、「はい」と返事しつつも、その視線はちらちらと同期らの方に向けられてる。
もしかして、今日の昼は同期と過ごすと思ったのか?
妻らしい気遣いに笑みを深め、オレは弁当を受け取る代わりに、妻の薄茶色の猫毛頭をぽんと撫でた。
「妙な気遣いはしなくていい。オレもお義父さんも、昼にお前に会えるのを楽しみにしてる。今日も頼む」
オレの言葉に、妻はふわーっと顔を赤くして、こくりとあどけなくうなずいた。
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