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最初は、ハッタリだろうという意見もあった。
あれだけ大人数で大々的に捜索したのだ。子供の名前も呼んでいたし、何人が行方不明になったかというのも、探るまでもなく分かっただろう。
ただ、それが本物らしいと判断されたのは、手紙と一緒にくくりつけられてた布切れが、子供らの服の切れ端だったからだ。
矢文が見つかったのは、田舎領の東端の農家の納屋の壁らしい。日頃から山賊の影がちらついている地域だっただけに、出没には信憑性があった。
「ああっ、うちの子の服です……!」
昨日の晩、うちに来た男女の口から、悲鳴があがる。
「お願いです、騎士様! 助けて下さい!」
子供らの親の懇願に、騎士団全員がうなずいた。
山賊の仕業と分かって、中には「よかった」と言う者もいた。
確かに川に流されるより、人質になってたいた方が、命の危険性は少ない。
山賊の仕業なら殺されていても不思議じゃないし、そのままどこかに売られていた可能性もある。誘拐を知らして来ただけ、まだマシな方だったとも言えた。
肝心の矢文には、いつどこで何と交換するだとか、具体的な要求は何も書かれていないから、もしかすると向こうも、話し合い中なのかも知れない。
「どうせ、ならず者の集団だ。金か酒か、その辺りを交換に要求してくるだろう」
上官の意見に、オレも賛同した。
矢文の見つかった辺りに向かうことになったのは、オレと上官を含む騎士団員5名と、義父の率いる自警団5名。
本当は全員で突撃して、一網打尽にしてやりたいところだが、罠じゃないかという意見が出て来て、市街地を空にはできなかったからだ。
「騎士団を東端におびき寄せ、領内の警備をがら空きにさせる作戦じゃないか?」
「留守中に市街地を襲われたらどうする?」
そう言われれば、その通りのような気もして反論できない。
子供らは預かった、としか書かれていない、要求も何もない矢文が、逆に怪しく見えてきた。山賊どもが集結しようとしてるらしいという話も、みなの頭にあったと思う。
それを考えると、ただの偵察に行くのに、10名じゃ多過ぎるような気もした。
「敵は弓矢を使う。盾を用意しろ!」
上官の指示に従い、剣を帯びて弓矢を担ぎ、左手に盾を持つ。
と、今にも出発しようとした我々の前に、意外な人物が立ちはだかった。
「オレも行きます!」
白い顔をこわばらせ、唇をぐっと引き結んで――上官に直訴に来たのは、オレの妻だった。
「何をバカな」
思わず文句を言いかけたが、手を上げた上官に制される。
いつもの大人しさ、控えめさを脱ぎ捨てて、妻は上官をぐっと見据えた。
「オレは子供らの教師です。親御さんの代わりに、オレが行かなくちゃ。それに、もし抗争になったら、子供らを側で守る人間も必要でしょう」
「しかし……」
上官もさすがにちゅうちょした。当たり前だ。ただでさえ小柄で細身で、自分の身も守れそうにないのに。
それに第一、領民を守るのは騎士の役割だ。
教師だって立派な仕事だし、責任も感じているのだろうが、ここまで首を突っ込む必要はない。
「いい加減にしろ、足手まといだ!」
苛立ちを込めて妻を睨む。
こんな時に愚かな強情さは、発揮しないで欲しかった。
だが、オレの叱責くらいで怯むような、半端な覚悟ではなかったらしい。
「足手まといにはなりません!」
大声でキッパリと言い返されて、ムカッとする。上官の手前、穏便に言い聞かせようとしてるのに。
「お前っ……!」
カッとして怒鳴りつけようとした時――それを取りなしたのは、義父だった。
「待ってくれ、アルト君。騎士様方、大丈夫です。息子はみなさんのお邪魔にはなりません」
義父の言葉に、妻がこくりとうなずく。何故か、自警団の面々もそれには同意しているようで、我々は正直戸惑った。
納得できた訳じゃないが、言い争いをしている場合でもない。結局上官の判断で、妻の同行は許可された。
「……では、せめて武装を」
上官が困ったように指示したが、妻はそれにも首を振った。
「オレはきっと、丸腰の方がいいでしょう」
何を考えてそう言ったのか、それが分かったのは、当の山賊どもと向かい合った時だった。
矢文のあった地域まで、馬を走らせて1時間。
早駆けで1時間といえば、結構な距離だ。何かあった時、急いで援軍を呼んだとしても、往復2時間だと間に合わない。逆に、市街地に何かあったとしても、我々が間に合うとは思えない、そんな距離。
そこに本当に山賊がいた。
当たりだと喜んでいいのか、ギョッとするべきなのか。
「待ってたぜ、騎士様方」
そんなふてぶてしいセリフと同時に、毛むくじゃらの大男が十数名の山賊たちを従えて、狭い道に立ちはだかる。
左右は森、視界は悪い。何人潜んでいるかも分からない。
馬に乗った山賊が数名いて、それらの肩にぐったりした子供たちが、荷物のように担がれていた。
「子供たちを放せ!」
上官が馬を降り、山賊どもに数歩近寄る。だが、そんな要求があっさりと通る訳がない。
「おおっと、その前に騎士様方には、武器を置いて貰おうか」
「何だと!?」
一瞬みな動揺したが、上官に手を上げて合図されれば従うしかなかった。
「早くしろ!」
子供の1人を担いでいた山賊が、その首根っこを掴んで、見せつけるようにぶら下げる。ぐったりしていたその男児が、くすんくすんと泣き始めて、さすがに顔がこわばった。
山賊の要求に従って、左手の盾を放り、背負っていた弓矢を放る。
例え剣を放っても、ブーツの中にはナイフがあるし、完全に丸腰になる訳じゃない。ただ、山賊は弓を我々に向けて構えていて……接近戦はさせて貰えそうになかった。
1人が泣き始めたせいで、残りの2人の子供にも、それが間もなく伝播する。
「うるせぇぞ、泣くな!」
山賊どもが怒鳴ると、子供らは余計に泣き出して――。
「待って!」
妻が馬を降り、丸腰のまま両手を挙げたのは、その時だった。
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