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夜の3
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たっぷりの朝食を取った後、旦那様は騎士団の制服に着替えてお仕事に向かう。
金ボタンに金の肩章、金の剣を帯びた漆黒の詰め襟の制服は、すごく格好よくて憧れだ。格好いい旦那様が着るともっと格好よくて、いつもうっとりと見惚れてしまう。
かつてはオレも、着たいなぁって思ってた時期があったけど、今となってみれば、多分似合わなかっただろうなと思う。
格好いい制服は、旦那様みたいな人が着てこそ格好いい。
旦那様も、この制服に誇りを持ってるみたいだった。
朝食の後片付けをしてると、玄関の方に旦那様が向かうのが分かった。
「行ってくる」
短い声かけに、「はい」と返事しながら、慌ててお見送りの為に玄関に向かう。
背筋を伸ばして真っ直ぐに立ち、堂々とお仕事に向かう旦那様をお見送りするのは、オレの毎日の特権だ。
黒い制服の後ろ姿をじっと見つめると、胸の奥がほんわかする。
整った男らしい顔を正面から見つめることは、やっぱ照れちゃってなかなかできないけど。後ろ姿なら、平気だ。
「行ってらっしゃいませ」
深々と頭を下げると、「ああ」と低い声がして頭をぽんと撫でられた。顔を上げると格好いい顔を寄せられて、ちゅっと軽くキスされる。
あの山賊事件以降、なんでかこういうスキンシップがやたらと増えた。嬉しいし幸せだけど、そのたびにドキドキし過ぎて心臓に悪い。
仕事帰りにお土産を買ってくれることもあって、優しいなぁって思うと、ますます好きになった。
何か心境の変化でもあったのかな?
それとも、ようやく結婚生活が板についてきた、ってこと?
結婚したばかりの頃は、互いに色々不慣れなとこあって、旦那様もため息が多かった。
呆れられて嫌われたら、離縁されるかも。そう思うと怖くて、それだけは絶対にイヤだったから、オレ、必死に頑張った。
寡黙な旦那様の好みを測り、できるだけ気持ちよく過ごして貰えるよう工夫して……。その内ため息が減り、ふっと口元を緩めることが増えて、それに気付く度嬉しかった。
初めから愛がないのは分かってたし、家政婦に色がついたくらいの存在だって分かってはいたけど、妻だって認められると嬉しい。
いつも素っ気なくて、背中ばかり見つめるしかなかった旦那様が、少しずつオレの方を向いてくれてるみたいで、それも嬉しい。
結婚して1年、不幸だなんて思ったことなかったけど、最近はホントに幸せだなぁって、ちょっと怖いくらいだった。
旦那様をお見送りした後は、洗い物と洗濯だ。
オレのなんて適当でいいけど、旦那様のものは丁寧に洗いたい。旦那様のシャツを洗うたび、大きいなぁってほっこりする。
それと重要なのは、シーツの洗濯。夜のあれこれで汚れたモノを洗うのは、我ながらすっごく恥ずかしい。洗いながら、激しかった様子なんかも思い出して、じわーっと顔が熱くなる。
夫婦なんだから営みがあるのは当然なんだけど、最近は回数が増えて来たからシーツを洗う回数も増えて来て、いつもいつも洗ってるなって感じ。
あのお宅、またシーツを洗ってるね……って、ご近所さんが見て、不思議に思ったりしないかな?
洗濯の後は、お弁当作り。
それが済むと学校に向かい、子供たちに勉強を教えたり、剣や弓矢を教えたりもする。
オレも、剣を習ったのは学校だった。
王都の兵学校に行ってたお父さんが師範代だから、結構本格的に教わったと思う。
剣を習えば習う程、上達すればする程楽しくて、子供の頃は夢中だった。学校内の剣術大会では何度も優勝したし、領内での剣術大会でも、ずっと勝ちっぱなしだった。
5連勝した時点で、殿堂入りとか出場禁止とか言われてガックリ来たけど、お父さんを相手に剣の鍛錬は続けてる。
オレの生まれ育ったこの地域は、山賊の襲撃も多いし、危険な野生の肉食獣も多い。若い衆が武器に慣れることは必然だった。
騎士団の方々がいつも守ってくださってるのは有難いけど、それを当然って思っちゃダメだと思う。
騎士様の妻として、オレも誇り高くありたい。
堂々と側にいたい。
自警団への参加は、おじーちゃんに反対されてできなかったけど、子供たちに地道に剣を教えるのも、重要な役目だ。
最近、旦那様がオレを馬で学校まで連れてってくれるせいで、オレの旦那様が騎士様だって、子供たちにも知られたみたい。
「若先生と騎士様、仲いいね~」
「熱々だね~」
無邪気にそう言われると、嬉しいけど恥ずかしい。
「将来結婚するんでしょ?」
そんなおませなこと訊かれたりもして、「してるよー」って答えるの、恥ずかしいけど幸せだ。
でもこの間、「若先生のこと、好き?」って旦那様に訊いてる子がいて、すっごく慌てた。旦那様は「ああ」って顔色も変えずに流してくれてたけど、ホントに申し訳ない。
結婚は好きとか嫌いとかじゃないんだ……なんて、子供たちにはまだ早いよね。
慌てたといえば、あの質問もそうだ。
『騎士様と若先生、どっちが強い?』
そんなの、旦那様に決まってるのに、ホント、何てこと訊くんだろう。無邪気なのはいいけど恐れも知らなくて、子供って怖いなぁって思う。
けど、そんな子供たちに騒がしく取り巻かれても、イヤな顔ひとつ旦那様はしない。不躾な質問も、軽く流してくれるし。優しくて強くて格好いい。
そんな旦那様が、自分と試合しようかって言ってくれたのは、つい先日のことだ。
ご生家が剣術の道場で、幼少の頃から師範のお義父様についてずっと剣を握ってた旦那様。そんな旦那様と、田舎の学校でちょっと習っただけのオレなんかが、対等に試合なんてできっこない。
でも、3回勝負って言ってくれたし、3回のうち1回くらいは勝ちたいなぁってちょっと思う。
試合できる日が楽しみだった。
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