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夜の5
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旦那様との剣の試合は、3本勝負。3回打ち合いして、2回勝った方が勝ちだって。
勿論、2本連続で旦那様が取ったら、そこで試合は終わりになる。
あまり大袈裟な試合にはしたくなかったから、試合はオレの実家、ハルバード本家の屋敷の庭で、審判はお父さんにお願いすることにした。
「それでいいか?」
手配を何もかもしてくれた旦那様に、文句なんかあるハズがない。うなずくと、ふっとかすかに笑いながら、頭を優しく撫でてくれた。
夕飯の後の、静かな余暇の時間。
いつもなら旦那様はラグの上にどっしりと座り、剣や武具の手入れをするのが普通だった。オレはソファでお茶を飲みながら、旦那様のそんな様子を横目でちらちら眺めてた。
けど今日は珍しく、旦那様は手入れを休んで、ソファで一緒にお酒を飲んでる。
旦那様の酒量は嗜む程度だ。泥酔するのは騎士失格だって考えがあるらしいし、いつ緊急呼び出しがあっても、対応できるようにだって。
オレは騎士様の妻だし、結婚してからほとんどお酒を飲んだことない。なのにさっき「一緒にどうだ」って誘って貰って、ビックリしたけど嬉しかった。
一緒に晩酌するのも初めてなら、ソファにこうして寄り添って座るのも初めてだ。
「勝ったら何をして欲しいか、考えたか?」
優しく髪を撫でながら訊かれて、じわっと顔が熱くなる。
この間の山賊の事件が起きるまで、オレが剣を扱えることすら知らなかったらしい旦那様。
その時に見せた剣の腕を認めてくれたのは嬉しいけど、なんかすごく恥ずかしい。自分と同じくらいの実力だって、旦那様自身に言われると、逆にちょっとプレッシャーだ。
旦那様に注いで貰ったワインを、舐めるようにちびっと飲む。
もしオレが勝ったら? そんな都合のいいようにはならないと思うけど、でも、もしもの可能性を夢見て、あれこれ考えるのは楽しかった。
憧れの騎士様と結婚できたっていうだけで、オレの人生の半分の望みは叶ってる。
しかも、その結婚相手の騎士様は男らしくて強くて凛々しくて格好良くて……寡黙で。オレが多少もたついても一切笑ったりしないし、怒ったりもしなくて幸せだった。
その旦那様と、末永く幸せに暮らしていきたいなーっていうのが、オレの望みの残り半分。
ずっと2人で仲睦まじくっていうのも理想だけど、あと何年かして落ち着いたら、養子を貰って育ててもいい。
旦那様と息子が、毎日庭で剣の稽古してるのを、側で眺めるのって素敵だろうな。
そういう幸せな光景を想像するたび、みっともなく顔が緩んでくる。でも、剣の勝負の報酬に、「子供が欲しいです」なんて突然過ぎるよね。
じゃあ、やっぱりお願いするのはお出かけかな?
騎士団のお仕事でいつも忙しい旦那様とは、結婚して1年、どこにも2人で出かけたことがない。
お父さんが自警団の訓練教官をするようになってから、毎日馬に2人乗りして学校まで連れてってくれるようになって、オレ、すごく嬉しかった。
最初は旦那様の気配を背後にびんびん感じちゃって、恥ずかしかったし落ち着かなかったし、ぽうっとし過ぎて当時の記憶も曖昧だ。
オレが真っ赤になってたの、旦那様は気付いてたかな?
2人乗りそのものも嬉しかったけど、何より嬉しかったのは、旦那様が自分から「送ってやろう」って気遣ってくれたことだ。
お父さんにお弁当を、っていう大義名分はあったけど、結果的に旦那様に迷惑かけちゃったし、怒られても不思議じゃない。旦那様の妻として、しっかりしたとこ見せたかったのに、騎士様方に囲まれると、ほとんど何も喋れなかったし。オレ、ダメだなぁってホントに思った。
なのに、「怖くなかったか」って。旦那様は優しい。
山賊事件の最中、山賊たちを撃退した後も、オレに真っ先に「ケガはないか」って訊いてくれたっけ。
あの時、子供たち3人を連れて一足先に市街地へ戻る道中、周りを警戒しながらだったけど、ゆっくり話ができて楽しかった。
またあんな風に、お出かけできたらなって思う。
賑やかな子供たちがいないと、あまり会話も弾まないかも知れないけど、格好いい姿を側で見ていられるだけで幸せだし、会話がなくても構わない。
2人乗りでのんびりお出かけもいいし、別々の馬に乗って、思いっ切り走らせたり、競争したりするのも楽しい。
お弁当持って、ハイキングでもいいな。
いつも騎士団のお仕事で忙しい旦那様だから、丸1日オレの相手をさせちゃう訳にはいかないと思うけど。ほんの1、2時間だけでも出かけたい。
「あの、もしオレが勝ったら、一緒にお出かけしたいです」
おずおずと希望を口にすると、旦那様はビックリした顔をした。
「それだけでいいのか? もっと……」
そう言いかけて、ふっと優しく口元を緩める。
コトン、とグラスをテーブルに置いた旦那様に、中身の残ったワイングラスを奪われて、えっ、と思うより早くキスされる。
「お前は無欲だな」
軽いキスの後、頭を両手で捕らえられ、こつんと額が打ち合わされた。
涼やかな彼の目元が、いつもよりほんのり赤くなって色っぽい。深くなるキス。差し込まれた肉厚の舌は、甘いワインの味がした。
オレ、そんなに無欲に見えるかな? 自分では欲張りだと思うんだけど。
だって、この素敵で格好いい旦那様を、独り占めしたいっていつもいつも考えてる。いつまでも側にいたいし、ずっと一番近くにいたい。
そんなことは恥ずかしくてとても口に出せないけど――叶うといいなって願ってる。
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