アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
夜の6
-
長いキスの後、肩を抱かれてソファの上で寄り添った。
「そうか、そう言えば、旅行に行ったこともなかったな」
すまなそうに言われて、「そんな」って首を振る。
お仕事だけで大変なのに、気を遣わせちゃったら申し訳ない。オレは別に、ほんの1、2時間の遠乗りとかで十分だ。
でも、「王都に旅行に行こう」って言って貰えて嬉しかった。
王都に、っていうか王都の兵学校に憧れはあったんだけど、オレはまだ1度も王都に行ったことがない。
ホントはオレも王都生まれで、4歳くらいまで向こうに住んでたらしいけど、街の様子や何かはあまり記憶に残ってない。1間しかないすごく狭い家で、お父さんとお母さんと3人で暮らしてたのしか覚えてなかった。
お母さんの生まれ育った王都。旦那様も王都生まれ王都育ちなんだっけ。
人通りも家や建物の数も、道を行き交う馬車の数も、すっごく多いって聞くけど想像できない。
王都はオレにとって、遠い憧れの街だった。
オレの望みは伝えたけど、旦那様のして欲しいことって何だろう? その答えを貰ったのは、寝室に移動してからだった。
「オレが賭けるのはこれだ」
旦那様はそう言って、騎士団の制服や装備品が入ってるクローゼットの奥から、派手な模様の紙袋を出して来た。
ピンクと黒のストライプ柄で、可愛いというには少し黒い。
ぽすんと渡されてお菓子かなって思ったけど、なんだか感触が違うし、いい匂いもしない。
「これ?」
中をそっとうかがうと、黒い何かが目に入る。ふわふわの……服? にしては小さいけど、何だろう?
「同僚からの王都土産だ。今までそんな物に興味はなかったが、お前が着けると思うと悪くない」
じっと見つめられ、大きな手のひらですうっと頬を撫でられて、ドキッとする。
明日の試合に響くから、営みはお休みって約束だったけど、何だか熱のある視線を向けられてるみたいで、こっちまでじわーっと体温が上がった。
「そんな物」って、何だろう?
「座って出して見ろ」
促されるままベッドに腰かけ、おずおず中身をヒザの上に出すと、まず目についたのは、ふわふわの黒い布。
幅10cmくらいの輪になっていて、ゴムが入ってるようで引っ張れば伸びるけど、腹巻には細過ぎるし、何だろう? よく見ると、同じふわふわの布の、黒の下着も入ってる。
「した、ぎ……?」
呆然と呟いてから、カーッと赤面してくのが分かった。
下着にしては、穴の位置がおかしい。これをはくと、ちょうどお尻の大事なとこ辺りに布がなくて、すっごく恥ずかしい状態になる。
他に入ってたのは黒いネコ耳のヘアクリップと、黒くて長いネコの尻尾。尻尾の根本には4cmくらいの丸い木球がくっついてて、これをどうするんだろうって不安になった。
「王都で流行っているそうだ。恋人や妻に着けさせて楽しむのが普通だが、逆に自らこれを着けて、男を誘う者もいるらしい」
オレの顔をじっと見て、ふっと口元を緩める旦那様。ネコ耳のヘアクリップをオレの手から抜き取って、そっと髪に飾ってくれた。
「よく似合う」
優しい声で誉められると嬉しいけど、なんでかゾクッと戦慄が走る。
「これは胸に着ける物だ」
旦那様は訳知り顔で微笑んで、黒のふわふわの輪になってる布を示した。
首を傾げてると服の上から着けてくれて、意味が分かった。確か踊り子って、こんな感じで胸を隠して踊るんじゃなかったっけ。でもオレ男だし、踊る訳でもないのに、こんなの着けてどうするの?
「オレが勝ったら、着て見せてくれ」
そんなことを爽やかに言って、旦那様がオレに着けた偽のネコ耳を弄んだ。
着て見せるって。
黒のふわふわの胸隠し、穴の位置のおかしい下着、ネコ耳、根元に木球の付いた尻尾……考えただけで目眩がして、ふらっと足元が遠くなる。
コレ、はやってるの? ホント?
王都って一体、どんな街なんだろう?
「えっ……あの、耳だけじゃダメです、か……?」
思いっ切り動揺しながら尋ねると、旦那様はふっと優しく笑みを浮かべて、「いいぞ」って笑った。
「お前が勝ったらな」
正直なところ、旦那様に勝てる自身なんて少しもない。
体格差もあるし、鍛え方も違うし、きっと鍛錬の年季も違う。3本勝負なんだから、3本の内1本くらい取れたらいいなって、それくらいにしか思ってなかった。
……負けられない。
部屋の灯りを小さなランプ1つだけに落とし、旦那様がバッと男らしくシャツを脱ぐ。
「それを着けて寝るのか?」
目線で胸元を指され、慌てて黒のふわふわを外したけど、まだちょっと恥ずかしさから抜け出せない。
ベッドに近寄るのをちゅうちょしてると、見透かしたように笑われた。
「寝るぞ」
短く誘われて、よろよろと近付く。
ベッドに入るなり、たくましい腕に抱かれてドキーンと胸が跳ねたけど、それ以上服を脱がされることはなかった。
翌日、試合の当日は、朝からいい天気だった。
いつも激しい旦那様が、軽く触れるだけにしてくれたから、体のどこにも調子のおかしいとこはない。
体調は万全。ただ、あまり大袈裟にしないで欲しかったのに、ハルバード本家に向かうと、たくさんの人が見学に来てた。
だったら学校でもよかったなって思ったけど、でももしかすると、学校ならもっともっと人が増えちゃったかも知れないし。やっぱりおじーちゃんちの庭でよかったかも。
本家のイトコたちは勿論、自警団に入ってる幼馴染や、学校の生徒たちもちらほらいる。
旦那様と同様に非番なのか、騎士団の方々も何人かいた。
「奥方どの、頑張ってくださいね」
顔見知りの騎士様から声援を貰って、すごく恥ずかしくて緊張した。
「レイ、アルト君。準備はいいかな?」
審判役のお父さんに肩を叩かれ、剣を準備して向かい合う。
渡されたのは、領内の剣術大会で使う、刃を潰した試合用のものだ。
「3本勝負。両者構えて。始め!」
お父さんの合図に、旦那様から闘気がぶわっとみなぎったのが分かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 37